「出口」を作るだけでは利益にならない
その情報社会で受け入れられた作家は、SNS発の「投稿作家」だった。
「『魔法のiらんど』というサイトが人気になった。利用しているのは中高生の女の子が中心で、累計180万タイトルの小説が掲載された。1人の『投稿作家』が3作品書くと言われているので、60万人の中高生作家が『目には見えないが、いる』状態だった」
その投稿小説を、角川氏は「ソーシャルコンテンツ」と呼ぶ。だが、その作品を読者に届けるためには、「プレミアコンテンツ」と呼ばれるものにまで昇華させる、新たな編集力が必要になってくる。だが、その考えは出版業界に元からあったものだという。
「コミケットはもちろん、芥川賞・直木賞も『ソーシャルコンテンツ』的だった。それらはアナログ的なやり方で、それをインターネットのサービスとしてやるだけの話」
では、その中で編集者、ひいては出版社にはどんな役割が必要になるのか。角川氏は、音楽業界を例に出して話す。
「EXIT(出口)だけ増えても利益が上がらない。科学技術の影響を真っ先に受けるのが音楽業界だが、そのために『音楽のすばらしさを知らないプレイヤー』に市場が独占されることがある。重要なのはコンテンツを大切にすることと、付加価値を高めることだ」
そのために、編集者は「原稿を作家からもらい、校正(構成)をする」というプル型の仕事から、「作品の権利を流通に乗せ、いかにユーザーに届けるか」を考えるプッシュ型のビジネスに思考を切り替える必要があると話した。
そんな時代にあって、角川氏は、「Changing Time, Changing Publishing」(時代が変わり、出版が変わる)という自らのモットーをあらためて掲げた。
「かつて、ロッキード事件で雑誌(マスコミ)が田中内閣を倒したことがあった。時代が変われば、そこで求められる出版の姿は変わってくる。まずはFIPP(国際雑誌連合)で、著作隣接権(著作物の配信権)を獲得することを呼びかけていきたい」
BOOK☆WALKERの正式オープンは4月で、iPhone/iPad用のβ版オープンは12月。今後の「プッシュ型」出版活動に期待がかかる。