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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第129回

ソフトバンクは日本を変えるか

2010年11月10日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ソフトバンクがNTTを買収したら

 NTT法を廃止すると、いま政府が保有しているNTT株の33.7%は売却しなければならない。これをソフトバンクが買収すれば経営権を握ることができ、TOB(買収提案)によって50%以上の株式を取得すれば、孫氏がNTTの経営者になることができる。NTTの時価総額は5兆8000億円だから、これは日本では最大の企業買収だが、世界の通信業界では、ボーダフォンによるマンネスマン買収の1830億ドル(14.6兆円)など大型事案もあり、不可能ではない。

 もちろんNTTの経営陣は買収提案に同意しないから、これは敵対的買収になるだろう。ただ「敵対的」という言葉が誤解されているが、これは取締役会が同意しないというだけで、株主にとっては株価の上がる企業買収は友好的である。一般に敵対的買収の成功率は低いといわれるが、この原因は社風の違いが大きい。特にNTT東西の社員(約12万人)は非常に保守的で、ソフトバンクの社風とは合わないから、売却したほうがいい。

 このように全株を買収して固定部門を売却するというのは、ボーダフォンがマンネスマンや日本テレコムなどで行なったものだ。企業買収はソフトバンクの得意分野であり、1兆7000億円でボーダフォンの日本法人を買った実績もある。ソフトバンクの「光の道」の狙いも、携帯端末の基地局の負荷を減らすことだから、NTTドコモのインフラを買収すれば、その狙いは達成できよう。

 ただしTOBは公開の競売だから、ソフトバンクが落札するとは限らない。最大の問題は、外資による買収を認めるかどうかである。携帯電話についてはボーダフォンなどの前例があるが、NTT東西のインフラを外資(たとえばチャイナテレコム)が支配することには、安全保障上の懸念がある。これは情報通信法で規制するしかないだろう。それを除けば、ドコモやNTTコムなどは外資に売却してもかまわない。

 銅線をすべて光ファイバーに替えるというソフトバンクの提案には大した意味がないが、半官半民で非効率な経営を続けているNTTを100%民間企業にして競争にさらすことには大きな意味がある。さらに(ソフトバンクあるいは他社による)NTTの買収が成功すれば、日本の資本市場は一挙に活性化する。たとえ成功しなくても、NTTの経営陣は今より強い緊張感で効率的な経営を行なうだろう。

 日本経済の「失われた20年」の最大の原因は企業の新陳代謝が進まないことだから、NTTが企業買収によって再編されることは大きなインパクトがある。日本に必要なのはインフラ整備ではなく競争促進であり、国策会社ではなく資本主義のダイナミズムである。NTT法を廃止して完全民営化すれば、ソフトバンクは日本を変えることができるだろう。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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