B&O ICEpowerを
ノートパソコンに積んでいいんかい?
「Bang & Olufsen ICEpower」(バング&オルフセン アイスパワー)は、普段あまり耳にしないブランド名かもしれない。デンマークの首都コペンハーゲンに本社を構えるオーディオビジュアル機器メーカー「Bang & Olufsen」(B&O)の100%子会社で、デジタルオーディオアンプ「ICEpower」の開発設計を担っている。
ICEpowerを採用したアンプは、周波数特性・ノイズ特性に優れた高いオーディオ性能を発揮するとともに、低消費電力&大出力(大音量)という高効率なのが特徴だ。主にB&O社の製品に加えて、各社のハイエンドオーディオ機器に採用され、特に耳の肥えたリスナーから絶賛されている。
NX90Jqは、B&O社の主要デザイナーとして知られているデビッド・ルイス氏がデザインを手がけるとともに、オーディオ周りに関してICEpowerの技術が注ぎ込まれている。その集大成が、液晶ディスプレー左右にはみ出すように搭載されたステレオスピーカーなのだ。こちらの記事でレビューされた「Eee PC VX6」にも搭載されている。
パネル両サイド部分の下部に、ノートパソコン内蔵用スピーカーとしては少し大きめとなる、直径32mmの円形スピーカーを搭載している。さらに、スピーカー背部から上部にかけて容量108mlのチェンバー(共鳴・増幅スペース)を設けて、パネル背面にも空間を持たせることで、低音を増強している。
なお、アンプ出力は11W×2チャンネル、出力からすれば口径80~100mmのステレオスピーカーを駆動できることになる。このステレオ出力機構に対し、ノイズを低減したコーデックで出力し、ASUSTeKのイコライザーソフト「SonicMaster」で最適化したうえで、ICEpowerアンプで増幅して出力しているわけだ。
しかし、実際にさまざまな音源を再生した際の印象は、「この音でBang&Olufsenブランドを名乗っていいの?」というものだった。確かにノートパソコンとは思えない大きな音が出るのだが、中音~高音域が混ざってしまい、低音もそれほど出ていない。
ボリュームを上げると、リニアに音量変化を感じられるものの、硬質プラスチックや金属にありがちな濁ったような音になる。SonicMasterをオンにしてボーカルを目立たせて、サラウンド効果をかけながら低音増強を行なうと、確かにメリハリが出てくる。だがこれでも、筆者が手遊びにあまりモノで作ったスピーカーの方がよい音が出ているのだ。
厳しい評価になってしまったが、NX90の再生音は直径32mmのスピーカーと、たった108mlのチェンバーによるものだ。ノートパソコン内蔵スピーカーとして、最高水準の音質であることは間違いない。チェンバー容量が1300mlもある外部のパワードスピーカーと比べるのが酷というものだ。
ここまでは、テーブルの上にNX90Jqを置き、少し離れたところから聞いていた。オーディオ機器的な使い方を想定したわけだ。しかし、NX90Jqで作業しながらBGMでも鳴らそうと、何気なくオーディオファイルを再生したら驚いた。先ほどとは違って中~高音域の濁りが減り、低音も心地よいレベルで鳴っているのだ。
特に、音像がしっかりした比較的静かな楽曲を鳴らすと、SonicMasterのサラウンド機能も効果的に発揮され、リアルな広がりが感じられる。NX90Jqのキーボードに手をかけたポジショニングでは、左右のスピーカーとユーザーの頭の位置が、ちょうど正三角形の頂点の位置に配されるわけだが、このリスニングポイントに最適化して設計されているのだろう。
高級オーディオとしてのB&O製品並みのクオリティーを期待すると、肩すかしを食うかもしれない。いくらパソコンとしてはアンプにパワーがあるからといって、オーディオ機器のようなリビングでの再生には不向きだ。自室などのプライベートな空間で、NX90Jqで作業をする自分のためだけに鳴らす。そんな使い方が合っているようだ。
★
一介のレビュアーが、デビッド・ルイス氏のデザインに講釈をたれるのも気が引けるのだが、あえて言わせてもらえば、「今、存在するデバイスのカタチには、使いやすさを求めて進化してきた歴史がある」と言いたい。正直なところ、NX90Jqのキーボードとタッチパッド、パームレストのデザインは、使いにくいものでしかない。ルイス氏が、従来のカタチを捨ててまで追求したかったのは、ツールではなくインテリアとしてのパソコンではないかと思う。しかしそれならば、ノートパソコンの形状にこだわる必要もなく、オーディオ設計にも余裕が生まれたはずだ。
もっとも、CPUやメモリー、大画面フルHDディスプレーに大容量HDDなど、ハードウェアスペックだけを見ても、実売価格が21万円前後であれば、適正価格といってよい。そこに世界一流のハイセンスなデザインと、ハイクオリティー・オーディオのB&O ICEpowerである。欲しくなるのも当たり前で、思わず、NX90Jqが似合う場所を用意したくなるほどだ。
NX90Jq の主な仕様 | |
---|---|
CPU | Core i7-740QM(1.73GHz) |
メモリー | 4GB |
グラフィックス | GeForce GT 335M |
ディスプレー | 18.4型ワイド、1920×1080ドット |
ストレージ | HDD 1TB |
光学ドライブ | BDコンボドライブ |
無線通信機能 | IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 2.1 |
インターフェース | USB 3.0×2、USB 2.0/eSATA×1、HDMI出力、アナログRGB出力など |
サイズ | 幅530×奥行き283×高さ30~45mm |
質量 | 約4.4kg |
バッテリー駆動時間 | 約2.8時間 |
OS | Windows 7 Home Premium 64bit |
価格 | 20万9800円 |
筆者紹介─池田圭一
月刊アスキー、Super ASCIIの編集を経てフリーの編集・ライターに。パソコン・ネットワーク・デジタルカメラなど雑誌・Web媒体への企画提供・執筆を行なう一方、天文や生物など科学分野の取材記事も手がける。理科好き大人向け雑誌「RikaTan」編集委員。デジイチ散歩で空と月と猫を撮る日常。近著は「失敗の科学」(技術評論社)、「光る生き物」(技術評論社)、「これだけは知っておきたい生きるための科学常識」(東京書籍)、「科学実験キット&グッズ大研究」(東京書籍)、「やっぱり安心水道水」(水道産業新聞社)など。
お詫びと訂正:掲載当初、著者名を誤って表記しておりました。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2010年11月5日)
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