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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

Google TVなんていらないよ(いまのうちは)

2010年11月02日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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 Apple TVは、2007年に発売されたアップル製のセットトップボックスで、YouTubeを見たり、iTunesストアから映画やテレビ番組を購入したりレンタルして見ることができる。

Apple TV

「Apple TV」

 Apple TVのビジネスがうまくいっているかどうかは疑問で、ソニーのInternet TVの発表と前後して値下げをしている。本体は、フルHD解像度を省略することで、99ドルと激安。映画のレンタルは2.99ドルから0.99ドルに大幅値下げした。現状、iTunesとYouTubeのほか、Netflixやディズニーなどの映像配信を受けている。

 これは、ご家庭の据え置き型映像iPodともいうべきものである。あまりにもシンプルな、ただのセットトップボックスに見えるが、ただの音楽プレーヤーだったiPodが、やがてiPhoneへと姿を変えたことを思い起こしてほしい。つまり、この機械はこれから化ける可能性があるのだ。たぶん、アップル社内にはその進化したApple TVの姿のスケッチもあるだろう。

 ところで、アップルはiPhone用に「iAd」という広告プラットフォームを提供しはじめた。まだ、これがどんなふうに定着していくのかは未知数だが、初期にネットで紹介された米国日産の広告を見ると、ほとんどテレビコマーシャルのような感じである。広告を叩いたとたんにユーザーのコントロールを離れてしまう(少なくとも広告主のシナリオとおりに進む)のだ。

 パソコン(ネットサービス)とテレビは、実は、とても似ているという話は一度書いた(「ヤフーがグーグルと提携した3つの理由」)。ネットサービスもテレビも、広告が、それを動かすための原動力になっているからだ。

 Google TVとApple TVは、どちらも、このことを知らないで作っているわけは絶対にない。テレビは、これからも「広告」がドライブするということだ。たぶん、ネット時代のテレビの構成要素は、「プラットフォーム」と「配信」と「広告」。それに加えて「ソーシャル」ということになるのだろう。

ネット時代のテレビの5大要素

ネット時代のテレビを構成する5大要素。GoogleTVでは配信やソーシャルの部分がもうひとつ見えていない

 もちろん、「テレビ放送」や「ウェブ」、「課金システム」などの要素もある。米国の場合には、今回のGoogle TVのパートナーにBEST BUYが入っていたように、「流通」というものもあるようだ(米国ではウォルマートやBEST BUY、さらに最近では会員制量販の力が強い)。しかし、上の図の5つがその正体だと言い切っても、さして支障はないだろう。

 5つ目の「ソーシャル」は、テレビのブロードキャストからソーシャルメディア化への変化ともいうべきものだ。いままでテレビ番組は、放送波によって確実に大量の人たちに送り届けることができた。それに対して、ネット時代には、ソーシャルなしくみで番組が届き、ソーシャルなしくみで感動が共有される。

 テレビとソーシャルの関係といえば、米国ではすでに、いくつかのアプローチが始まっている。しかし、9月10日にSNSのミクシィが「mixi Plugin」と「mixi Graph API」を発表した際に、パナソニックが連携を検討しているとアナウンスされたことのほうが気になる。mixiゲームの感覚で、番組情報が顔アイコンとともにやってくるのだろうか?

 このように見てくると、Google TVがAndroidベースであって、「Chrome OS」ベースでない理由がよく分かる。もしChrome OSで作られていたら、グーグルもメーカーも提携している配信業者も、特別な存在ではなくなる。画面の主導権を、みすみすどこの馬の骨とも分からない連中に明け渡してしまうだけだからである。コンピュータにデスクトップという土地があるとき、その領主だけがアプリや広告を支配できるのである。

 「封建時代に逆戻りしている」のが、いまのコンピュータやテレビの置かれた状況というべきかもしれない。

 しかし、Google TVやApple TVは、ユーザーがとても「ラクチン」で「ハッピー」に感じるように、便利で使いやすいものに進化していくだろう。ユーザーにとってはそれでいいじゃないか、という意見でもよい。アプリを作る側も、ストアやマーケットによって世界中に売れるというメリットもある。アップルやグーグルは儲けるかもしれないが、それに身をゆだねたほうがラクだということだ。

 それでは、日本の家電メーカーはどうするのか?

 選択肢は3つある。1つ目は、Google TVを作ること。ソニーは自社サービスの連携を条件に、それを選んだのだろう。2つ目は、ネットというみんなに平等に提供されている世界を、自分たちの味方につけることだ。ウェブとそのプラグインだけですべてできちゃうブラウザマシンがテレビなのだという方向に持って行く。そして3つ目は、アップルやグーグルと競合する世界を構築することだ(これは1社なのかグループなのか海外企業と組むのかというのもあるが)。

 しかし、テレビとコンピュータはこの先ほとんど同一のものになる可能性があると思う。iPhoneで始まった新しいデバイスの世界は、コンピュータもテレビもカーナビも、画面のあるものはすべて飲み込んでしまうかもしれない。


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