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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

Google TVなんていらないよ(いまのうちは)

2010年11月02日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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Internet TV

 2010年10月12日、米国でソニーが「Internet TV」を発表した。これまで日本の家電メーカーがテレビを作るときは、その会社が部品からデザインから使い勝手まで、すべてを決めて作っていた。それが、今回は5月にグーグルが発表した「Google TV」という仕様のもとに作られている(はずである)。

 Goolge TVには、グーグルの「Android」というスマートフォンのためのOS(正確にはプラットフォーム)が使われている。ソニー・エリクソンの「Xperia」やシャープの「IS03」のようなスマートフォンを、いきなり魔法のバトンで“バッ”と大きくして、テレビ受像器を飲み込ませたようなものだと思っていただきたい。

 5月のグーグルのプライベートイベント「Google I/O」で発表され、同時にソニーから製品が出るということもアナウンスされて話題になった。そして今回発表されたのは24型~46型の4機種で、価格は日本円にして約4万9000円~約11万5000円。すでに米大手量販のBest Buyで、予約注文が始まっているらしい(意外に安い)。

 Google TVの詳細については、別途グーグルのサイト等を見ていただくのがいいが、「Internet TV」という名前のとおり、ネット経由で動画配信や音楽配信を利用できる。動画はNetflix、CNBC、NBA、YouTubeなど、音楽はNapster、Pandoraなど、そしてソニーのVODサービス「Qriocity」も利用できるとある。

 しかし、このように書いてみると「Google TV」と名乗るにはなんともまともで、「グーグル版アクトビラですか?」と言いたくなるような内容ではありませんか?

 グーグルの社是は「世界中の情報を整理してアクセスできるようにする」のはずである。だとしたら、「世界中のテレビ番組をグーグルが録画してサーバの中に入れとくから、みんなで見てよ」くらいのことをやるのかと思った。事実、グーグルは出版社に対してはそれに近いことを言ったわけですよね。

 そのほうが、テレビを録画した映像ファイルが世界中で無限増殖するというムダもない。

Google TVの背景にある
7つの要因

 今回のGoogle TVには、いくつかの背景があると思う。ザッと拾ってみると、次のようなことになる。

  1. 米国は地上波 → IPTVの流れが見えている
     日本と米国ではテレビ(映像文化)がまるで違う。米国はComCastに代表されるCATVが強く、Hulu、Netflixなどの映像配信も伸びており、合計すると80%もの世帯が多チャンネル放送を契約している(日本は20%程度=J:COMによる)。日本に比べて、映画を中心に映像ソースも豊富だ。一方、地上波のABCの平均視聴年齢が60歳を超えたというニュースもあった。
  2. ラジオ、雑誌での広告ビジネス失敗のリベンジ
     客の目が向けばその先に広告を貼り出すのが、メディアビジネスの基本だ。グーグルは、2005年に雑誌、2007年にラジオの広告ビジネスに参入したが成功していない。今回は、テレビをAndroid化することで確実に広告を吸い上げたい考えだろう。Androidの広告プラットフォームとして、AdMobも買収している。ちなみに、グーグルは1年間は広告配信を行わないとしているそうだ(同社はやりたいことを1年くらい前から宣言しておくことがあるのですよね)。
  3. YouTubeが相変わらず金になってない
     グーグルは、「Google Video」というサービスをやっていたが、うまくいかずにYouTubeを買収した。ところが、このYouTubeが、一説には同社のサーバリソースの半分を占有。1日に100万ドルの配信コストがかかっているともいわれる。数億ドル単位で赤字を計上しているYouTubeを、そろそろお金にしたい。
  4. ソーシャルTVに参入するにはいまがチャンス
     5月に「Google TV」の構想が明らかになったとき、わたしは、それがただのAndroidマシンだとすると、「Goolge TVのつもりがFacebook TVになりかねない」と書いた。Facebook内に人気テレビ番組や映画のファンサイトがあるからだ。そのためか、今回の発表ではTwitterと連携することになった。ソニーのデモビデオでも、Twitterしながらテレビを見るようすが全面に描かれている。
  5. ゲームの行方も見えなくなっている
     歴史上、テレビ放送から唯一テレビ画面を奪うことに成功したのは、テレビゲーム機である。ところが、そのゲームについては、専用機のパッケージの世界からネットを利用したソーシャルゲームなどに注目が移っている。グーグル自身も、ソーシャルゲームのプラットフォームを構築中。Virgin Groupがこの世界に再参入するというニュースもある。米国では、家でテレビの前で遊ぶ子が誘拐されない良い子だそうだから、Google TVで子供向けのゲームもありうる(iPhoneゲームのテレビ版ですね)。
  6. ウィンテルならぬグーテル連合を作る
     1980年代まで、パソコンメーカーは各社各様の製品を作っていた。しかし、1990年代には、そのほとんどが「ウィンテル」による仕様になった(Macをのぞけば)。ウィンテルというのは、Windowsを提供するマイクロソフトとx86系CPUを提供するインテルの2社連合のことをいう(“Win”dows+In“tel”)。彼らの示したレシピに沿って、世界中のメーカーはパソコンを作るようになり、両社は莫大な収益を得ることになった。そして「グーテル」(Google+Intel)の時代がくる?
  7. Apple TVの先手を打つ
     いまやグーグルの最大のライバルといえるのがアップルである。先日もジョブズが、グーグルAndroidを揶揄する発言をしたことがニュースで伝えられた。2007年に同社が発売したApple TVは、いまのところただのセットトップボックスだ。また、これに類する製品はほかにもある。グーグルが、テレビだけはアップルよりも先にやりたいと考えてもおかしくない。

 このように書き出してみると、なんとなくテレビというメディアが置かれている状況に対しては、とても正しい方角を向いていると思う。しかし、なんとなく「これでうまいけそうなのか?」と感じている人もいるのではないか。要するに、

 「すいません、かないません。どうぞグーグルさまやってください」

というほどの内容ではないのだ。

見たい、探したいのは、
番組ではなくその中の1シーン

 おそらく、日本の家電メーカーのエンジニアたちが集まって、今回のGoogle TVと同じくらいの機能の製品を作るのは、それほど大変なことではない。あるいは、Windows Media Centerにちょっと手を入れたコンピュータを作って、それをテレビと呼ぶのでも十分対抗できるはずである。

 同じようなことは、いま大騒ぎしているiPadのようなタブレット端末でもいえることだ。たぶん、いま一番仕事を効率化するタブレット端末は、「Windows Tablet」である。なぜなら、アプリは無限といえるほどたくさんあるし、対応ファイルフォーマットも無限に近い。仕事の生産性だけを考えたら、すぐさまiPadの注文を取り消して、Windows Tablet(ピュアタブレット)にすべきである。

 しかし、コンピュータというのはそういうものではないのだ。実のところ、iPadもiPhoneも、その中身は「MacOS X」である。だが、そこからパソコン的なファイル操作や運用管理を可能な限り排除することで、iPadやiPhoneの価値が創造されている。重要なことは、家電やモバイルにおいては、OSという「下着」が見えてはいけないということではないのか。

 その見方でいくと、今回のGoogle TVは、テレビ番組や衛星放送やIPTVの番組などが、「検索」して見られるというのが売りらしい。実際に触ってみたわけではなく、デモを見る限りではあるが、この「検索」というのが気になる。それって、「パソコン」の領域の感覚ではないか?

 「じゃあエンドウさん、あなたはどんな操作性なら納得するというのですか?」と突っ込んでくる人もいるかもしれない。

 それなら答えましょう。

 大量の映像ソースをみる装置としては、ソニーが2004年に7チャンネル同時録画可能な「VAIO type X」、2005年に8チャンネル同時録画の「Xビデオステーション」を発売している。後者は、最大3週間分まで遡って視聴できる。そして2008年には、PTPが「SPIDER zero」を発売した。

SPIDER zero
「SPIDER zero」

 この中でも、SPIDERは8チャンネル1週間を“まる録”するものだが、既存のどんなレコーダーやテレビのリモコンよりも、シンプルなリモコンで操作できる。

 番組は、番組名、出演者名、CMのメーカー、製品名など、その週に録画されていた番組に出てくるキーワードで、メニューから選ぶようになっている。その場で自分の好きなキーワードを入力して検索することはできず、あらかじめネットから設定しておくことしかできない。操作が、とてもパッシブ(受け手的)なところで止まっている。

 ところが、SPIDERの真骨頂はここからである。キーワードで引っかかったリストから「見たいもの」を選ぶと、そのキーワードが出てきた番組内の、該当するシーンから再生が始まる。これは、ちょうどグーグルの検索結果リストのスニペット表示のような感じで、そこだけちょいちょいと眺める感じになる。番組のその部分だけを見て終わることもあるし、「これなら番組を最初からちゃんと見よう」となることもある。肝心のシーンだけちょいちょい見ていけるので、えらく効率がよい。

 ユーザーたちによるオススメもあり、これも同じように「この番組が面白いよ」ではなく、「この場面の、このセリフが面白いよ」という感じで、ピンポイントで見ることができる。だって、「あなたの目的地はこの地図の中にあります」では困りますよね。きちんと地図上のポイントで示してくれて、はじめて情報というのと同じですよね。

 これに比べると、Google TVの操作は、どうにもパソコンを使っている感覚で、リラックスできないと思う(YouTubeの操作は、一応ソファにもたれて使うことを想定した、文字どおり「Leanback」という新しい操作性になるとはいうのだが)。

 要するに、Google TVは、むしろ「Android TV」というべき製品なのだ。Androidベースなので、いずれ誰かが優れたテレビ視聴アプリを作ってくれるのを待っているという可能性が高い。それこそが、グーテル連合の戦略だということもあり得る(少なくともウィンテル連合は、そうやって世界を制覇した)。

 そこで、どうしても触れておかなければいけないのが、アップルの「Apple TV」である。

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