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ネットワークの禁忌に触れる 第3回

貴重な速度を低下させる要因を探る!

ADSLは本当にラジオや電子レンジの干渉を受けるのか

2010年11月16日 09時00分更新

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雑誌やWebサイトなどで、ADSLのスループットを向上させるためのテクニックを見かけることがある。その中に多いのが、ラジオや電子レンジ、PCなどはADSLと干渉するため、離しておくべきという説だ。果たしてこれは事実なのか、実際に確かめてみた。


電子レンジがADSLを遅くする?

 ADSLでは、カタログ上の最大伝送速度が同じサービスであっても、導入したユーザーの環境よって、スループットが大きく異なるのはよくある。これを解消すべく、雑誌やWebページなどでは、速度向上や低下防止のための方法がいろいろと紹介されている。そうした中で有名なのが、ADSLモデムやケーブルは電化製品やラジオ、電子レンジの近くにおいてはいけないという説だ。電化製品は電磁波を出すため、これがノイズとなってADSLと干渉し、スループットが低下するらしい。

 だが、なぜ干渉するのかその説明がわかりにくい情報が多いのも事実だ。そこでここでは、実態を確かめるため実験を行なうことにする。

 実験方法は非常に原始的で、ノイズ源とされる機器にADSLケーブルを巻き付け、さらにADSLモデムを近くにおいた状態で、スループットを測定するというもの。調査対象は、干渉の元としてあげられることの多い、電子レンジとAMラジオ、そしてPCとディスプレイのセットだ。電子レンジは測定中は加熱を続けている状態、ラジオはもっとも干渉が大きいAMラジオの「NHKラジオ第一」を流している状態で行なった。この選局理由は、後半で解説する。速度測定には、ADSL/FTTH用の速度測定サイトを利用した。

 さて、その実験の結果が図1のグラフだ。一目で分かるが、どのケースも影響を受けている様子は伺えない。一体なぜ、このような結果が出たのだろうか。

図1 ADSLの干渉実験の結果

異なる周波数は干渉しない

 電子レンジは電磁波を使って食品を加熱する調理器具だ。IEEE802.11b/gの無線LANは、この電磁波の影響を受けてスループットが低下することがある。これは、電子レンジと11b/gが使う電波の周波数が、同じ2.4GHz帯であるためだ。つまり電子レンジは、同じ周波数帯を使う無線LANとは干渉を引き起こす。

 一方、ADSLが使う電気信号の周波数帯は、25kHzから1.1MHzだ。つまり、電子レンジとは利用する周波数帯がまったく違うため、ADSLは電子レンジによる影響を受けない。こうしたことから、電子レンジから遠ざけることにはあまり意味がないことが分かる。

AMラジオも受信では干渉せず

 電子レンジと違いラジオによる干渉は、真実味が高い。なぜなら、一部のラジオ局は、ADSLと同じ周波数帯を使っているからだ。ラジオ局の周波数は地域によって異なるが、今回実験を行なった東京都の場合、NHKラジオの第一が594kHz、第二が693kHzを使っており、まさにADSLの下り方向の周波数に重なっている。では、なぜ今回の実験では影響がなかったのか。

 その理由は簡単だ。ラジオは電波を受信する装置で、発信しているわけではない。ADSLに干渉するのは電波がADSLモデム/ケーブルに届いたときであり、ほかの装置、つまりラジオが電波を受信してもADSLに影響することはない。ラジオが新たにADSLに影響を与えるとすれば、それは家庭内で放送局を始めたときだ。

回線全体に影響するAMラジオ

 ただし、ADSLがラジオ局の電波の影響を受けないのではないので注意してほしい。図2は、ADSLモデムが出力した「キャリアチャート」である。キャリアチャートは、ADSLが利用する周波数ごとのデータレート(通信速度)を示したグラフだ。このグラフは、干渉がまったくない場合は右肩下がりになる。それは、周波数が高いほどデータレートが低下しやすいためだ。

図2 ADSLのキャリアチャート

 ところが、一部の周波数だけ突然データレートが低下していることがある。これは、周波数が干渉を受けている状態だ。図2の青い線がADSLの下り方向の周波数だ。そして、4つ飛び出しているオレンジ線が、東京近郊のラジオ局が発信する電波の周波数である。図中の赤丸の部分から分かるように、ラジオと重なる周波数では、データレートが低下しており、スループット低下の要因となっている。参考までにこのグラフに京都のラジオ局の周波数を載せたところ、京都のラジオ局の周波数と今回の実験で速度低下を起こしている周波数はまったく重ならなかった。

 では、家庭内のADSLケーブルにラジオの電波を通さないシールドを付ければ、キャリアチャートの波形よくなり、スループットも向上するのか。その答はノーだ。なぜならラジオの影響は、NTT収容局からユーザー宅までの電話回線も受けるからだ。しかも、屋外の電話線の長さは、家庭内のADSLケーブルの比ではない(図3)。たとえば、NTT収容局から2km離れている家の場合、家庭内配線が5mであっても、屋外にはその400倍もの回線があることになる。つまり、屋外の電話回線は屋内に比べて400倍も影響を受けやすいことになる

図3 ADSLの干渉は、回線が長い屋外の方が受けやすい

 こうしたことから、ADSLはラジオの影響は受けるが、それはNTTの設備内のことであり、ユーザーによる対処は不可能なことが分かる。

影響が大きいISDNからの干渉

 ADSLについての諸説で当たっているものもある。それは、ISDNとの干渉だ。さきほどの図2には水色の線があるが、これがISDNのデータレートである。ADSLのデータレートを見比べると分かるが、ISDNのデータレートが高い周波数では、見事にADSLのレートが下がっている。このキャリアチャートを作成したオフィスではISDN回線も同時に使っているため、その影響が現われているわけだ。このように、同じ場所でADSLとISDNの両方を利用しているユーザーは、ISDNを解約することでADSLのスループットは向上するはずだ

 また、ISDNを契約していないにもかかわらず、キャリアチャートにISDNの干渉が強く表われているのなら、近隣のISDNユーザーの影響を受けている可能性がある。この場合は、NTT東西に依頼して「回線収容替え」をしてもらう方法がある。これは、ユーザー宅からNTT収容局までの電話回線をISDNによる干渉の少ない別の回線に変える工事だ。どうしても気になるのであれば検討してみるとよいだろう。電子レンジやラジオを遠ざけるような方法と違い効果は高いはずだ。


 本記事は、ネットワークマガジン2004年12月号の特集を再編集したものです。内容は原則として掲載当時のものであり、現在とは異なる場合もあります。

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