"POS" KILLS THE RECORD SHOP
―― でも辞めちゃうんですよね、なんで会社はそんな人を手放すんですかね。
中野 POS(Point of Sale System)を導入したんですよ。それは音楽を殺すからいかんと、僕は最後まで主張したんですが。
―― それはどういう理由からですか?
中野 POSは売れるものだけ売って、売れないものを切るシステムなんです。音楽でも何でも、市場にはヒエラルキーというものが存在しますよね? 大衆向けからマニア向けまで、裾野の広い下の部分から突端まで。その上の部分を切ってしまったら、そのジャンルは死ぬに決まってるんですよ。
―― そんなに売れないけど、そのジャンルの先鋭的な部分ということですよね。
中野 生長点に当たる部分ですよ。そこを切ってしまったら、下は育たなくなるし、つまらなくなっていくんです。だけど会社は売れるものを売って、利益を上げたい。昔は売れなくてもブルーグラスを置いとこう、カントリーの好きな人がいるからって置いてたのが、POS管理になると、それは不良在庫になっちゃうんです。
―― じゃあ中野さんの反対にも関わらずPOSは導入されたんだ。
中野 それで辞めたんです。もう14~15年前じゃないかなあ。95~96年くらい。その後は渋谷にテクニーク(TECHNIQUE)というDJ・テクノ専門店がありますよね。そこの中古12インチを売るスパイス・レコードっていうお店で、7年くらい。電子音だし、メロディーに依存しないし、新しい。でも、どうもクラバーと呼ばれる人種とソリが合わなくて。
―― いや、何となく分かる気はしますけど。
中野 それでこの店を始めたんですね。2005年に。僕がその時にやりたかったのは、昔、オヤジがやってるジャズ屋があったじゃないですか。フュージョンなんか聴きに行ったら説教されそうな感じの。あんな感じの店をやりたかったんです。
―― でもテクノでニューウェイブで頑固オヤジって難しくないですか?
中野 難しいですけど、僕の中には基準があるんで。うちの究極的な目標は、輸入盤に全部ライナーをつけることなんです。解説を。それに近いものがプライスカードに書いてあるコメントですね。見てもらえばわかると思うんですが、ほぼすべてのCDにコメントを付けています。
―― 昔は手書きのポップを読んで買ってたけど、普通のお店にはなくなっちゃいましたよね。
中野 それが致命傷ですよね。うちは専門店として、意地でも付けるようにしています。だって「この魚なに?」って聞かれて「知らん!」と答える魚屋はあり得ないですよ。
―― や、確かにそりゃそうですよ。
中野 「これは煮付けにすると美味いんだよ!」って教えてくれるのが魚屋さんでしょ? スーパーにしたって、おかずレシピみたいなものは置いてあるじゃないですか。それがリアル店舗の強さですよ。

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