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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第81回

星占いサイト「筋トレ」は、なぜラッキーカラーを紹介しないのか

2010年10月12日 12時00分更新

文● 古田雄介

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ラッキーカラーを紹介しない理由

―― 文体の改良は、そういう色々な読者の反応がきっかけになったんですか。

石井 まさにそうですね。よく掲示板に「こういう言い方をされて傷ついた」「この言い回しだと二つの解釈ができるけど、どっちの意味?」といったことを書かれて、そこから学んでいった感じです。もちろんすべて要望にこたえるというわけではないんですが、勉強になることは本当に多いです。自分で気づかなかったことを、すごく教えてもらっていて。

 占いは不特定多数の人に読んでもらう場合でも、手紙やメールのように「あなたは~」と、二人称で書くことがほとんどです。二人称は一人称や三人称よりも読者の心に入りこむ力が強いので、自分の状況と合っていない内容があると、見過ごされにくい傾向があると思います。やってみて初めて気づいたことなんですが、もともと自分の文章力を、書くための力を高めたいという思いから「筋トレ」と名づけたサイトだったので、すごくありがたいことでした。本当に、読者に鍛えられているなと思います。

週間の運勢例(2010年10月11日から17日のしし座の空模様)。行間を想像させる書き方で、性別を問わずに全年齢に向けた文章になっている

―― 確かに男性が読んでも違和感がない書かれ方をしていますね。また、「明日こんなことがあるでしょう」みたいな具体的なイベントを予言するような書き方もあまりないように感じますが、それも意図的ですか?

石井 そこは、私が占いを書く上で、根本のようなところにあるポイントです。たとえば、なにかの占いで「今の運勢は最高潮だから、結婚しなさい」とか、「運勢が悪いから、何もしないでじっとしていなさい」みたいなことを言われたら、私は、極端に言えば腹が立つんですよ。占いでそんなこと決められるわけないだろ、と(笑)。

 で、そこでなぜ私が怒りを感じるんだろうと考えてみたんです。どうも、読み手の選択の自由を縛ってしまうのがイヤなんです。占い文化の中では、そういうことはどうしてもあります。というか、そういう風に「決めてもらう」ことが、占われる側のニーズとしてあるんだろうと思います。私には、それに対するアンチな気持ちがあるんですね。だから、自分ではもっと、読者の内面に働きかけるような書き方、少なくとも行動をあまり制限しない書き方を心がけるようにしています。とはいえ、なかなかうまくはできないんですけど。

―― なるほど。発信側として責任のとれる範囲で書いているということですね。

石井 そう言っていただけるとありがたいです。そのために抽象的な文章になってしまい「逃げるな、はっきり言え!」とか、「無責任だ!」とか言われることもありますから。

 同じ理由で、星座ごとにラッキーカラーを紹介するのも抵抗があるんです。いつだったかお仕事でラッキーカラーを紹介してくださいと言われたときは、「赤いものを持ってれば大丈夫! とかいう考えがキライなんです」とか言っちゃったりして(笑)。占いには色を扱う手法も確かにあるんです。星座や星が象徴している色がある、という思想です。でも、その色を身につけているから運が良いのかどうかは、私にはわかりません。

読者と交流するメインの場となっている掲示板。「今週期待してたのに何もありませんでした」といったクレームも多く寄せられるというが、いまのところ閉鎖の予定はないという。ただし、荒らし対策のために、書き込みに関するローカルルールは積み上げ続けている

―― ああ、占いの結果で外部を武装するような方向には持っていきたくない。あくまで内面の不安を和らげたりする使い方に留めたいというスタンスですね。

石井 ああ、武装って考え方はすごく面白いですね! そうです、武装に使うのは違うと思うんです。占いから導き出された言葉は、自分の現状にあわせ、自分の方に引き寄せることができるものだと思うんです。自分の現状をデコードするように解釈して、そういう仕組みだから調子が悪いんだな……と自分を納得させたりとか。

 でも、いわゆる「占いに依存する」ような状態になってしまうと、内面の安心ではなく、外側の武装を求めるようになります。不思議なことに、占いで手に入れた「幸運」という防具や武器は、手に入った瞬間にふわっと効力が消えてしまう。だから、どんどん欲しくなるんです。だからいろんな占いを回ったり、いくつもお守りを買ったり……と、たくさんお金を使ったりしてしまうこともある。でも、外側を守る力というのは、本当は自分の内面にあると思うんですよ。

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