目標は「もっと良い文章が書きたい。それだけです」
―― 複雑なところですね……。では、将来的に占い以外の活動にも力を入れる可能性もあるんですね。2009年に禅僧の名言や漢詩の詩句を解説した書籍「禅語」を書かれていますが、そういう方面に?
石井 最終的には、そちら(占い以外の仕事)が限りなく増えて、占いはちょっとだけ、というふうになれればいいなと思っています。
占いは面白いですけど、やはり二人称の文章ということで色々な制約が生じます。そういう枠をなくしたところで書いてみたい気持ちはあります。二人称は「あなたは~」と呼びかけるから、読者はある程度、自分のことが書いてあるという風に受け止めざるを得ないんです。
そういう文章以外に、三人称や一人称で書かれた文章を評価してもらって、「あなた(石井さん)の文章だから読みたい」と言ってもらえたときは、一番嬉しいです。そういう本を出して、それを買ってもらうのが、書き手としては一番幸せだなあと思いますよ。
―― 感覚的には「筋トレ」で鍛えた腕力を、通い慣れたジム以外でも使っていきたいという感じでしょうか。
石井 そうですね。仕事として書くのは、やはり万全、文句なしの状態で書けることはほとんどありません。締め切りという時間の制約があって、指定された分量があって、編集者さんに求められる内容というものもあります。
だから「もっと時間があれば」「もっと好き勝手に書ければ」ということじゃなくて、その中でできるだけ良いアウトプットが出せるようにってことだろうと思います。目標は、たぶん「もっと良い文章が書きたい」っていう、それだけなんだと思います。それだけ、ですね。
―― 石井さんにとって、良い文章、理想の文章はどんなものですか?
石井 そうですね、ムダが一切なくて、それでいて自然と書き手の個性が感じられるような文章じゃないでしょうか。
「禅語」で、「一期一会」という言葉を取り上げたんですが、そこで井伊直弼に関する説明を書いたんです。ここはかなり推敲して、削いで、叩いて、自分なりに「よくできた」と思えたんです。何のことはないただの説明なんですけど、「これ以上は自分でもうツッコめない」という状態になって、書きあがってちょっとうっとりしました(笑)。
―― 装飾を各所に施したゴシック建築ではなく、構造美を追究したモダン建築、という感じですね。
石井 ああ、そんな感じかもしれません。自分らしさはむしろ出さないように、ゴテゴテしないように削いでいって、「完全に自分の匂いを削いだ、できるだけ叩いた!」という状態で世に出したとき、読者から「これ、まさに石井さんの文章だよね」と言われたら、もう本当に「ヤッター!」となります。
自分の中で完全にプレーンだと思えるもの、無個性なものを目指して、突き詰めたとき、それを読んだ人から、逆に「もう、いかにもあなたが書いたものだよね」と言われるのが一番いいんじゃないかと思うんです。
今は正直、それがちっともできてなくて、逆に自分のクセがある言葉づかいとか、冗長性とかを野放しにしてしまっているようなところがあって、非常に恥ずかしいと思っています。本当は、常にいいものを目指していかないといけないんだと思うんですけど。
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