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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第14回

アスキー総研 遠藤諭所長に聞く

コンテンツ消費データ「MCS」でアニメ消費の今を見る

2010年10月12日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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突出する20代の“ネットで無料視聴”

遠藤「今回のMCSが対象にしているメジャータイトルだけではなく、もう少しニッチなタイトルではまた違う傾向があるのかも知れないけれど、全体を通じてみるとミスマッチはあるだろうね。では、ユーザーがネットなど他のメディアに流れているのか、MCSから探ってみると……まず言えるのは、やはりテレビは圧倒的に強いよね」

テレビでアニメ・特撮を楽しんでいるという答えが圧倒的。MCSから抽出したデータを元にアスキー総合研究所が作成

まつもと「“若者のテレビ離れ”などと言われたりしますが、少なくともアニメにおいては接触機会・認知度を確保するという意味では重要なメディアだということが見て取れますね」

遠藤「あとは“無料でネットから/パソコンで”と回答した20代の多さが目に付くよね」

まつもと「MCSで20代がよく見るサイトを抽出すると、他の世代に比べてニコニコ動画が上位に来ていました。こういったネット配信サイトでの視聴や収益化に期待が集まるところです」

遠藤「その通り。PCでの映像視聴手段を聞いたところ、20代ではYouTube・ニコニコ動画と回答する人が突出して多かった。アニメをPC・ネットで見ている人の中では、YouTubeが全年齢で高く、ニコニコ動画では20代が多い。一方Gyaoは比較的年齢が高めだね」

まつもと「これもまた顕著に傾向が出ますね(笑)」

遠藤「20代では“音楽を何で聴くか?”という質問に対しても、実はYouTubeが多い。違法合法を問わずあらゆる楽曲がありますからね」

アニメをネットで見る人の視聴手段のグラフ

YouTubeで音楽を聴くユーザーに注目されている同社の試験サービス「DISCO」。アーティスト名で検索するとそのPVを連続再生できる

やはりそこには「満腹感」

遠藤「映画に関して言うと、20代前半の3人に1人がネットで楽しんでいると回答しています。これは、比率としてはかなり高いので、違法アップロードされたものを見ている人も相当多いんじゃないかな。中国版YouTubeとも言える『優酷網』は、日本からのアクセスが一番多い時期もあったから」

まつもと「とは言え、そもそもアニメの場合、テレビで大々的に無料視聴が可能です。そして、それを(ダビング10という制約はあるにせよ)録画して繰り返し視聴させることもできるわけで、いわば巨大なフリーモデルとも言えます。

 ですからネット視聴の機会が増えたからといって、セルビデオの販売に大きな影響は及ばないのではとも思います」

世代に関わらずDVDでの鑑賞が50%以上を占めているが、20代前半だけはネットで無料視聴しているとの回答が多い(アスキー総合研究所のニュースリリースより抜粋)

遠藤「物理的にはそうかもしれない。けれど、意識――ある意味マインドシェア――への影響は大きいように感じる。収入が下がる中、無料で手に入るならばお金はできるだけ払わないという意識。

 不景気・ネット・エコなどの意識の変化、この3つの要素が同時に来ているということが大きいでしょう。

 そして、実際に違法動画を視聴しているかはともかくとして、デジタル化されてネットに存在することがわかると、『いつでも手に入る/見ることができる』という考えを生んでしまう。購入というアクションを起こす一段階手前に、ネットでの無料視聴という選択が出現している。善悪はともかくとしてね。

 それがさっきの仮説、“映像としてではなくグッズとして買っている”というところにつながっていると思うなあ。

 言わば、食べるものがあると分かっていれば、あえて今食べなくてもいい、そんな感じですよ。実際には食べ物を持っているわけではないけれど、ネットに行けばいつでもそれが手に入る」

まつもと「同じようにコンテンツを食べ物に例えたお話は、アニメ「イヴの時間」のプロデューサー・長江努さんがされていたのを思い出しました(関連記事)」

遠藤「かつては(デジタル品質で劣化なく視聴ができる)DVDも無かったわけじゃないですか。ネットは非同期だし蓄積メディアだから、ビデオがない時代のテレビ番組みたいに、見逃したらもう一生見られないといったプレッシャーはない。同期性がなくなって蓄積されていく」

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