盤石のネットワーク分野
UCSとビデオ会議の市場開拓が試金石
説明会で改めてわかったのは、やはりネットワーク事業の強みだ。アップルの株価の時価総額がマイクロソフトを抜いたり、オラクルがサン・マイクロシステムズを買収してしまうなど、競争の激しいIT業界のなかで、シスコほど横綱相撲をとっている企業は、インテルくらいしか思いつかない。この10年で、SAN系のブロケードがファウンドリーを買収したり、アラクサラ、日立電線などの国産ベンダーが市場参入したり、HPがスリーコムやH3Cを傘下におさめたり、ネットワーク業界も大きな変化が起こっている。しかし、ジュニパー ネットワークスやエクストリーム ネットワークスが一時期誇っていた技術的な優位性を今では完全に覆し、シェアや実績をますます高めてきた。
驚くべきは全体に横ばいが続くネットワーク分野でも、同社がいまだに成長を続けている点だ。資料を見ると、2010年第4四半期でのスイッチの売上高は前年比27%増、ルーターは同15%増で拡大している。リーマンショックによる落ち込みを考えても、同社のコアであるネットワーク事業がいまだに堅調であることがわかる。
このシスコの競争力は、安定した製品供給や販売体制などもあるが、基本的にはやはり「イノベイティブな攻めの戦略」が根幹にある。スイッチの伸びは、決してCatalystのみに依存しているわけではなく、やはりデータセンター向けの「Nexusシリーズ」の牽引も大きいだろう。昨年は日本市場でも人気の高い統合型ルーター「ISR G2」も投入された。これらの製品には、ビデオエンコーダーをルーターに搭載したり、MACレベルでパケットを暗号化したり、仮想環境上にLinuxのネットワークサービスを統合したり、とにかく先進的な取り組みが惜しげもなく盛り込まれている。2010年度には、なんと400以上の新製品が投入されたほか、タンバーグ、アーキロック、コアオプティックなどを含む数多くの企業買収や開発投資も行なわれたという。また、平井氏も社長就任以来、さまざまな人と話した結果、「シスコはイノベイティブであることが期待されていることがわかった」と語っていた。
そして、このイノベイティブな攻めの戦略がネットワーク分野以外にまで放射されたのが、ご存じUCSとビデオ系製品だ。特にUCSの分野は、多くの競合ベンダーが存在しており、今までのベンダーごとの棲み分けやエコシステムをあえて壊して進むことになる。この分野を伸ばせるかが、クラウド時代の試金石となろう。
説明会では言及されなかったもの、資料には「Cisco 3.0」という表現が見られた。DataCenter 3.0を筆頭に、同社は最近「3.0」という表現をよく使う。確かにIOSのソフトウェアルーターを販売していた前世紀を「Cisco 1.0」、ブロードバンドの普及を前提にシリコンベースの製品展開を進めた2000年以降をCisco 2.0を考えれば、ビデオ会議やUCSなど新しい事業に乗り出した2010年代は「Cisco 3.0」といえるかもしれない。そして次の10年、このUCSとビデオ系製品の国内市場を、ネットワーク企業のシスコがどこまで開拓できるか注目したい。
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