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シャープ、電子出版ビジネス「GALAPAGOS」発表

ガラパゴスの逆襲なるか? その目のつけどころを考える

2010年09月30日 10時00分更新

文● まつもとあつし

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 9月27日、シャープはかねてから噂されていた、電子出版ビジネスについての発表を行なった。発表内容はこちらなどを参考にしていただきたいが、今回はその発表内容から見えてくることを考察したい。

GALAPAGOSの衝撃

 27日午後、その名が発表された途端Twitter上は騒然となり、タイムラインはこれ一色となった。

 「ガラパゴス」――これまで日本独自の環境で特殊な進化を遂げた携帯電話など、どちらかと言えば自虐的に語る意味で使われることが多かったこの言葉を、シャープは真正面から製品名として採用したのだ。

GALAPAGOS公式サイトより。ダーウィンが唱えた進化論のように、複雑な環境変化に適応することを目指すという

 「私たちはこの言葉を決して否定的にはとらえていない」とシャープは胸を張る。その心意気は熱く、反骨精神に共感を覚えた人も多いのではないだろうか?

 Kindleを擁する「アマゾン」、そしてシャープの「ガラパゴス」の登場で、いよいよ電子書籍は「秘境」で買うものになったという冗談も聞こえてくる(そして、筆者はそれならAppleのiBooksは「エデンの園」だと思ったりもした。リンゴ=Appleを食べるなという禁忌が厳格な審査ともダブって見える)。

 それはさておき、果たしてGALAPAGOSは「変化に適応して」進化の競争に勝ち残ることができるのか気になるところだ。

 今回の発表は、端末の詳細や参加パートナーについての詳細は語られなかった。それらについては年末を予定しているプラットフォームの開始を待たなければいけないが、現時点でも2つのポイントが課題として浮かび上がってくる。

「中間」フォーマットXMDFが最終フォーマット?

 日本における電子出版の動向を左右する三省懇談会。総務省、文部科学省、経済産業省の三省合同によるものと説明されることが多い。

 だが重要なのは、ここに大手出版社が中心となって設立された「日本電子書籍出版社協会」や家電メーカーなど民間からのステークホルダー(利害関係者)が参加しており、意見具申や提案を行なっている点だ。

 シャープがザウルスの「ブンコビューア」向けに開発し、日本語表示について改良を続けてきたXMDFフォーマット。三省懇談会ではボイジャーのドットブック形式とともに統一中間フォーマットのベースとして採用する方針が固まっている。

 KindleのAZWやiPadが採用するEPUBなどの国際デファクトフォーマットは、日本語表示にはまだ完全には対応していないとされる中、その間隙を突いた格好だ。

 「中間」という呼び名をそのまま受け止めれば、まずいったんは印刷工程でこの中間形式に電子化し、必要に応じてEPUBなどに再変換してユーザーに提供できるようにする、という構想だろう。

 しかし今回のGALAPAGOSは、“拡張”という体裁を取りながらも「最終」の提供フォーマットとしてXMDFを採用している。XMDFはEPUBやPDFなどのオープン規格と異なり、専用ビューワへの配信にはシャープへのライセンス料支払いが発生する。

 EPUBファイルの中身は、HTML5などすでにウェブの世界ではデファクトとなった規格で記述できるように整備が進みつつある。CSSといったレイアウト配置を得意とする仕組みを使えば縦書きなどにも対応が可能だという意見も多い。

 いったん「統一中間フォーマット」で印刷会社に蓄積されたファイルを再変換する手間も無視できない。

 中国・韓国が電子書籍については縦書き表示への拘りを捨て、国際デファクト規格へのシフトによる効率化を採る中、この決定は逆に日本の電子出版のスピードを遅くする恐れもある。

 日本語の「独自性」をガラパゴスの環境になぞらえたGALAPAGOSだが、果たしてこういった意見にはどう答えていくのだろうか? 筆者には変化への対応というよりも、これまでの自社フォーマットへ市場環境のほうを合わせようとしているようにも見える。

電子新聞・雑誌の自動購読が強みとなるか?

 GALAPAGOSのもうひとつの特徴がコンテンツ配信の仕組みだ。発表会で上映されたプロモーション映像では、「購読した新聞・雑誌が寝ている間にダウンロードされ、翌朝にはオフラインでも読める状態になっている」ことが強調されている。

YouTubeに開設されたGALAPAGOS公式チャンネルより

 KindleやiBook Storeでは、単品書籍販売に関するロイヤリティ支払いについてはすでにその料率が開示されており、出版社としては販売計画を組みやすい状況になりつつある。

 一方、新聞や雑誌のような一定間隔で読者の手元に届けられる刊行物をどう扱うかは、まだAmazonやAppleと版元との間で交渉が続いている状況だ(ただし、iBook Storeではこの数ヵ月以内にその定期販売方式もスタートすると報じられている)。

 これまで新聞や雑誌は単体の「アプリ」として提供されることが多く、新しい号が出るたびに購入手続きを行なう必要があった。

 これが最初の登録以降は自動的にプッシュ配信されるとなれば読者の利便性はもちろん、提供者の事業モデル確立の上でもメリットがあると言えるだろう。

 発表会では、雑誌系がダイヤモンド・日経BP・プレジデント・東洋経済、新聞系では毎日新聞、日本経済新聞、西日本新聞が「調整中」であると発表された(電話で追加取材したがやはり調整中が公式見解とのことだ)。

 課題となるのは、やはりその品揃えと内容の充実度だろう。

 すでにiPadに展開中の「MAGASTORE」とはどう競争していくのか? また「ビューン」でユーザーからの反応にあったような「タイトルは豊富だがそれぞれコンテンツの一部しか見られない」といった状況にならないよう、どのような施策を採るのか注目される。

 携帯電話やiPadに対して後発となるGALAPAGOSが充実度で競争できるようになるには、どれだけ出版社・新聞社といったCP(コンテンツプロバイダー)に魅力的な条件・環境を提案できるかに掛かってくるだろう。

 仮にシャープの新サービスを、業界が“XMDFへのロックイン”と捉えるなら、CPが積極的に参加してくる期待は薄まる。XMDF採用のための、納得できる根拠を示すとすれば、AppleやAmazonといった外資系ではなく、(日本の市場環境を十分に理解した)国内企業がプラットフォーム運営者となり、出版社や新聞社などへの利益配分を厚くし、その保護育成を図るという点に尽きると筆者は考える。

 だからこそ、シャープがCPに対してどのような魅力的な提案をしていくのか、その結果を測ることになる「12月の発表」に注目している。

混沌の中eBookジャーナル創刊が発表される

 世間を騒がせたとも言えるGALAPAGOS発表と同日の午前、どちらかと言えば落ち着いた記者発表が行なわれていた。

 毎日コミュニケーションズが、電子出版の専門誌を11月中旬から隔月で発行するというものだ。紙版(2100円)はもちろんのこと、電子書籍版(1260円)も販売される。

来月創刊予定の「eBookジャーナル」(表紙は誌面イメージ)

編集長の小木昌樹氏(中央)は「DTPWORLD」編集長を経て「+DESIGNING」の立ち上げに関わった人物だ

 業界関係者向けの専門誌となるが、毎号160ページ前後、紙版は2万部、電子版は5000部発行を目標とする。雑誌の電子配信では実績のあるfujisan.co.jpの全面バックアップのもと、様々な配信形態を試したいとする。

 GALAPAGOSの発表からも見えてくるように、各プレイヤーの思惑も入り乱れ、まだ混沌の中にある電子出版の世界。一時の流行り、廃りではなく、業界をじっくりと俯瞰・考察する記事に期待したい。


著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+iPhoneでGoogle活用術」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto


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