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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第126回

ジャーナリズムは死に、そしてウェブでよみがえる

2010年09月29日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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マスメディアと個人メディアの間の空白を埋める
「ミドルメディア」

 このような潮目の変化を敏感にとらえたのが、1990年代に台頭してきたウェブの言説だった。「2ちゃんねる」などで匿名で語られる言論の質は、論壇の格調高い論文とは比較にならないが、各国のネット言論が左翼的であるのに対して、日本のそれは「ネット右翼」などと呼ばれるナショナリズムが特徴だった。それは実際には伝統的な右翼のように戦争を美化するものではなく、戦後教育とメディアを支配してきた「左翼論壇」への反抗だった。

 しかし伝統的な左翼ジャーナリズムが権威を失う一方、それに対抗する言説が匿名のノイズばかりということになると、言論空間に空白が生まれる。日本のブログやSNSは、ユーザー数では欧米に引けを取らないが、社会的影響力は小さい。大部分が匿名で質が低いからだ。数千万ともいわれるブログの99%は、本人以外はほとんど読まない落書きのようなものである。

 つまり現在の日本のメディアは「数百万人が読む高コストのマスメディア」と「数百人しか読まない低コストの個人メディア」に二極化し、アメリカの「Huffington Post」「Gawker」のように大手メディアを脅かすような新メディアが育っていないのだ。信頼性は高いが管理されて多様性のない記者クラブ情報と、自由で多様だが信頼性の低いネット情報の中間に大きな空白があり、自由だがある程度信頼できる専門家の情報が出てこない。

 民主党の代表選挙をめぐっては、露骨に菅首相を支持する朝日新聞などのマスコミと、小沢一郎氏を支持するネットメディアの対立が印象的だった。ネットメディアの中から実名の専門家による言論を選んで情報を発信することは、こうしたマスコミのバイアスを修正する役割も果たしている。それはまだ少数派だが、こうした「ミドルメディア」を育てることは、日本に民主主義が定着するためにも必要だろう。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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