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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第6回

大事なことは絶対言わない、言わせない

直球で「愛」とは言わない! 背中で語るアニメの美学 【前編】

2010年10月09日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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遅咲きのプロだったから

大西 私としては、もっとアニメーションのお客さんの口に合うような脚本を書きたいと思っているんですけれど……(笑)。もともと実写映画の畑ではありますね。脚本の仕事を始めたのも遅いんです。デビューが39歳で、ほとんど40歳直前でした。

元は実写映画をメインにやっていた

―― 40歳で脚本家に転身、ですか。それはかなりの「遅咲き」ということになりますね。それまではどんなことをされていたのですか。

大西 ジャーナリスト専門学校というところで講師をしていまして、そちらに16年間いました。一番最初のスタートが映画の助監督で、日藝(日本大学藝術学部)在学中から現場の方には入っていました。

―― 助監督時代には、やはり映画を撮りたいと思われていた?

大西 そうですね。みんな最初は監督をやりたいと思うものだと思うんです。私も監督志望で、助監督を経て、いずれはきっと監督になるんだと思ってやったけど、挫折してしまったというクチなんですよ。

 それが1978年ぐらいだったんです。その頃の日本映画は、ちょうど斜陽と言われていた時期で。映画業界としては、まだ徒弟制度的に助監督を経て監督になるというのが当たり前のムードなんだけれど、「産業」としてはもう日本映画で食べていくのは難しくなっていた。ここから監督として出ていくのは相当難しいなという感じはありました。

 それでビデオ編集の仕事をしていたんですが、技術に特化した仕事だったもので、自分にとっては面白さが感じられなくて。それで講師になったんです。

―― そこから、どのように脚本のお仕事に繋がったのですか。

大西 たまたま川崎郷太という後輩が、「ウルトラマンティガ」(96年)の監督をしていたんです。それで「大西さんは、まだやる気があるんですか」みたいなことを言われ、プロットを出してみたんです。そうしたら「ティガ」の仕事が来て、そこから、「(ウルトラマン)ダイナ」、「ガイア」と1本ずつ書いて。

 正直、大好きな「ウルトラマン」シリーズを書ければ十分だと思っていたので、このまま別に専門学校にまた戻って、シナリオを書かなくても別にいいかなとは思っていたんです。でも、アニメーションの方から「人造人間キカイダー」が来て、「サイボーグ009」とつながった。「009」はシリーズ構成で。まだアニメ2本目なのにそんなことできないよと言っていたら、みんなで協力するからと言われて。

 そこで面白いと言ってくれる人もいて、私もやればやるほど、面白いなと思いはじめたんですね。それで専門学校の講師のほうはやめてここに至る……という感じです。

大西 ですから、もともと特撮ものがやりたくて映画の世界に入ったんですね。「ウルトラマン」(66年)とか、そのシリーズが好きな世代です。SF的な設定や話が好きで。当時の特撮ものの魅力というのはSF的なところだけではなくて、勧善懲悪じゃない、怪獣と人間は本当はどちらが侵略者なんだろう……と考えさせられるような話もたくさんありました。

―― それは、いわゆる「子供番組」という感じではないですね。

大西 そうですね。あまり「子供番組」だと意識しないで作ったんじゃないかと思うんですね、昔の特撮ものって。スタッフも、一般のドラマを作っている方たちがやっていて、だからこそ面白かったというのはすごくあると思うんです。子どもには、ぱっと見わからない。だからこそ「あのシーンはなんだったんだろう」と惹かれて、ずっと記憶に残るんだと思うんですよ。

―― 脚本ともつながる気がしてきました。「言葉で説明しない方が印象に残る」と。

大西 そうなのかもしれませんね。僕も、子供心にずっと残っていたから、40歳で業界に来ちゃったわけですから(笑)。

 本人が持つ思いを、本人は語らない――。

 これが「ナイトレイド」のキーになる描写力だ。大西氏の脚本では、本人のことは、別の人物の言葉や、象徴的なモチーフ、つまりは「モノ」を使って表現されている。

 たとえば「葵」の場合は、バイオリンが婚約者との思い出の象徴に、「葛」の場合は、祖母にもらった手帳が、軍人として生きる誓いの象徴になっている。本人の像を周辺から浮かび上がらせていく。それが、大西氏の「語らせる」という脚本だった。

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