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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第6回

大事なことは絶対言わない、言わせない

直球で「愛」とは言わない! 背中で語るアニメの美学 【前編】

2010年10月09日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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イメージは黒沢明「野良犬」

―― 具体的には、どんな手法を取りましたか。

大西 象徴的なモチーフを使って、見る側に想像してもらうということですね。普通に、シナリオ作りの基本ではあるんですけれども。第5話に関しては、「夏」でやればいいかなと。「夏の因果関係」という言葉がぱっと頭に思い浮かんだもので「夏の陰画(いんが)」と。

―― 夏というのは、普通は明るいイメージですよね。太陽が照りつけているのに、絵ではどこか暗くてけだるい感じがしたんですけれども。ああいうところはどんなふうにイメージされましたか。

大西 思い浮かべたイメージとしては、黒澤(明)監督の「野良犬」がありましたね。あれが夏のイメージが強く出ている作品なもので。刑事モノで、拳銃を盗まれた刑事が犯人を追いかけていく話なんですが、夏の描写がすごく濃厚に出ていて。ブラインドの間から抜けてくる強烈な日の当たり方とか、黒澤らしい雨がゴーッと降るところとか……。「夏の陰画」でも雨を強く降らせましたけど、「夏の季節の終わり」も含めて描写できたらと。

―― 季節の終わりが、西尾と愛玲の関係の終わりでもあるわけですね。

大西 そうですね。でも、視聴者の方からしたら、結構分かりづらかったんじゃないかとも思うんです。ヘタするとこちらの自己満足になってしまうこともありますし。こういう話は、会議で持ち上がっても、たいてい最終的に「やっぱりやめておこう」になるんですけれども、「ナイトレイド」では、最後までそうは言われなかったんですね。実際フィルムが上がってみて、視聴者の方のリアクションを知ると、その辺はもう少し分かりやすくやった方がよかったかなという反省点はあります。今の僕の気持ちとしては。

第5話「夏の陰画」脚本から

○照りつける太陽(翌昼)
 地べたの上で蝉は最後のあがきで足を動かしている。
○愛玲のアパート
その窓から無言で外を眺め、愛玲は待ち続けている。アパートの下。彼女の死角から、その姿を見上げている葛。やがて踵をかえし、その場から去っていく。また遠雷が聞こえてくる。

A-1 Pictures 大松裕プロデューサー でも、分かりやすさよりもイメージ優先で、というのは僕らのほうでお願いしたことなので。アニメというのは、やはり分かりやすくという方向にいくので、そこはチャレンジで。

―― どうしてチャレンジされたんですか。

大松 アニメーションも、今まで(視聴者に)受けたことだけやっていたら、新しいものは出てこないので、僕たちが作るアニメにも何かしらの変化をもたらしたいなと。だから、大西さんのようなアニメとは違う文脈を持つ方に、あえて大人っぽく、というふうにオーダーでお願いしたというのはあります。

 大西さんは、これぞプロという感じがします。構成がはっきりしていて、セリフも練り込んで書けて、プロとしてのたたずまいを持った脚本を書ける。今のアニメ業界にはいないタイプですね。

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