9月19~21日の3日間、パシフィコ横浜にて「G空間EXPO」が開催された。いきなり“G空間”と言ってもぴんと来ない読者が多いだろう。国土交通省国土地理院が提唱する、“地理情報システム”(GIS:Geographic Information System)とIT社会を組み合わせて利便性を図る「地理空間情報高度活用社会(G空間社会)」の普及――つまり、さまざま情報を付加した地図と位置データを、各種産業やサービスにより利用してもらおうというイベントだ(入場は無料)。
従来は「地理空間情報フォーラム/地理空間情報システム展」などといった極めてお堅い名前であったが、今回からはより門戸を広げて一般の人にもG空間を認知してもらうべく、名称を変更するとともに開催日を連休期間中に変更するといった配慮もなされている。
もちろん出展企業の多くが地図・測量関係であるため、ブースには測量機器が並び、業界関係者向けイベントという印象はまだまだぬぐい切れていない。それでも、会場には子供向けのスタンプラリーを設けたり、また最近とみに話題の“古地図の展示”を行なうなど、幅広い層が楽しめるように工夫されている。
地図と位置情報と言えばやはり現代は「GPS」。もはや“カーナビでおなじみの”という前置きすらも不要なほどに、ケータイ/スマートフォンにも標準的に組み込まれ、地図をはじめとした位置情報サービスの中心となっている。展示会場でも、主力となる計測・測量機器の中心に位置するのは、計測用に高精度化されたGPSだ。
JAXAブースでは、打ち上げられたばかりの準天頂衛星(日本版GPS衛星)初号機の「みちびき」の実物大模型とそのしくみが展示されていた。従来のGPSと併用することで10倍以上の測位精度を実現するが、日本の緯度では利用できるのが1日のうち8時間のみであり、実用運用ではなくあくまで技術実証のためとして機能が縮小されたのは、大いに惜しまれる
展示会では特にアミューズメント系の製品こそあまり見かけられなかったが、19日まで開催された“東京ゲームショウ”(関連記事)でも、位置情報アプリがひとつのジャンルになるほどに数多く出展していたところを見ても、すっかり一般に定着したと言えるだろう。
車の上にカメラとレーザーセンサーを搭載し、画像に加えて周囲の施設の形状までも3Dでマッピングする「三菱モービルマッピングシステム」。いわゆる“Google ストリートビューカー”を3D化&高度化したものだ。周辺の立体データは点の集合として記録される。土地・建物などの建築物データはGoogleMapsや各種地図情報のように登録された不動産情報などからある程度揃えられるが、公式データにない新しい建造物まで、道を走るだけで取り込んでいける
GPSによる位置取得とともに最近注目を浴びているのが「3D表示」と「AR」(拡張現実)だ。会場のあちこちでデモされていた3Dでの地図表示には特に目新しい技術はなかったものの、昨今の3DブームやARへの単なる便乗というわけではなく、地図/航空写真と3Dは切り離せない深い関連性がある。
標高データを用いた立体模型地図によって地形を把握するのははるか昔から行なわれてきた手法だし、3Dステレオ写真が初期に実用に供されたのも、第二次世界大戦時に航空写真を3Dで見ることで「地上の偽装を判断するため」だった(当時は地上に工場や兵器の絵を描いたりしていた)。旧来の二次元(平面)の地図から、標高や建物の高さというデータを備えた斜投影や3Dの立体表示地図、さらにさまざまな施設などの情報を視界内にインポーズするAR技術の“見える化”と、地図が進化を遂げているわけだ。
GPS連携の地図作成は陸上だけではない。東亜建設工業の「自動ベルーガ」(写真左)は、GPSとソナーを用いて海底や湖底の地形を自動でマッピングするシステムだ。船で曳航しながら海底をより精密に測定する「ベルーガ・ディープ」(写真右)とともに、今後の海洋開発に役立ちそうだ
各種の情報レイヤーを重ね合わせた地図――地理情報システムの本格な利用は、阪神・淡路大震災をきっかけに始まり、国や自治体の災害対策などとして進んできた。といっても自治体や研究機関など向けで、一般ユーザーには普段あまり接する機会はなかったが、スマートフォンや3D、ARサービスの普及によって去年あたりから一気に身近なものになった。
地図上のデータの見える化と同様に、これまでの自治体による災害対策や企業での業務利用だけでなく、地理情報という概念をより広く一般に認知させるための“見える化”が本イベントの重要なコンセプトであることを考えれば、連休を利用して会場を訪れる親子連れなども多く、なかなか成功したイベントとなったようだ。
アスキー総研のセミナーも開催!
各種シンポジウムやセミナーに加え、G空間をアピールするステージイベントも多数実施された。こちらは、アスキー総研の遠藤 諭氏と長州小力氏による「アスキー総研プレゼンツ 位置モノガジェット&アプリ大賞!」の模様。
大賞に選ばれたのは、街中ですれ違った人に一目惚れしたときに位置時刻をマークアップして、相手も同様のマークアップしていれば連絡が取り合えるというiPhoneアプリ&サービス「hitome.bo」だ。
