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ARと3D、マルチレイヤーで進化した最新型地図――G空間EXPO

2010年09月22日 06時00分更新

文● 行正和義

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9月19~21日の3日間、パシフィコ横浜にて「G空間EXPO」が開催された。いきなり“G空間”と言ってもぴんと来ない読者が多いだろう。国土交通省国土地理院が提唱する、“地理情報システム”(GIS:Geographic Information System)とIT社会を組み合わせて利便性を図る「地理空間情報高度活用社会(G空間社会)」の普及――つまり、さまざま情報を付加した地図と位置データを、各種産業やサービスにより利用してもらおうというイベントだ(入場は無料)。

 従来は「地理空間情報フォーラム/地理空間情報システム展」などといった極めてお堅い名前であったが、今回からはより門戸を広げて一般の人にもG空間を認知してもらうべく、名称を変更するとともに開催日を連休期間中に変更するといった配慮もなされている。

測量機器メーカーのトプコン

会場では測量技術・測量機器などが多数展示された(写真は測量機器メーカーのトプコンの様子)。三脚を用いて光学測量を行なう昔ながらの機器にも、GPSによるサポートと3次元レーザースキャナーによる自動計測など、実はものすごい進歩が見られる

測量機器メーカーのトプコン

地理情報システムや測量機器を販売するトプコン(TOPCON)のGPSデータ収集システム。GoogleMapsのストリートビューのようなデータ収集用に360度の動画を撮影しながら走行。本来は自動車の屋根に装着するが、写真のように自転車での牽引も可能だ

トリンブル・ニコンのGPS受信機「GPS Pathfinder SB」

自転車用ナビのようにマウントされているのはトリンブル・ニコンのGPS受信機「GPS Pathfinder SB」。カメラや無線LAN機能、Bluetooth機 能なども備える。メニューにルート検索なども付いていてまるで市販ハンディナビさながらだが、個人向けではなく地理情報システム入力用の業務端末だ

 もちろん出展企業の多くが地図・測量関係であるため、ブースには測量機器が並び、業界関係者向けイベントという印象はまだまだぬぐい切れていない。それでも、会場には子供向けのスタンプラリーを設けたり、また最近とみに話題の“古地図の展示”を行なうなど、幅広い層が楽しめるように工夫されている。

会場の一角に設けられた古地図コーナー。江戸から近代にわたる古地図によって、横浜と神奈川の発展の歴史をかいま見る。地図の多くは縮尺や比率が一定でないが、現在の地図と比較しながら眺めてみたい

古地図頼りの街中散策

ステージではNHK「ブラタモリ」のプロデューサーによる、古地図頼りの街中散策の魅力を語るイベントもあった

 地図と位置情報と言えばやはり現代は「GPS」。もはや“カーナビでおなじみの”という前置きすらも不要なほどに、ケータイ/スマートフォンにも標準的に組み込まれ、地図をはじめとした位置情報サービスの中心となっている。展示会場でも、主力となる計測・測量機器の中心に位置するのは、計測用に高精度化されたGPSだ。

JAXAブースでは、打ち上げられたばかりの準天頂衛星(日本版GPS衛星)初号機の「みちびき」の実物大模型とそのしくみが展示されていた。従来のGPSと併用することで10倍以上の測位精度を実現するが、日本の緯度では利用できるのが1日のうち8時間のみであり、実用運用ではなくあくまで技術実証のためとして機能が縮小されたのは、大いに惜しまれる

東京ユビキタス計画で使われているRFID装置

ICタグなどをさまざまな地点に配置する、屋内型の位置情報サービスでもさまざまな実験が行なわれている。写真はTRPユビキタス研究所などが実施している「東京ユビキタス計画」で使われているRFID装置。20mメッシュで配置されたRFID基地局により、誤差約15cmで位置を特定できるという

 展示会では特にアミューズメント系の製品こそあまり見かけられなかったが、19日まで開催された“東京ゲームショウ”(関連記事)でも、位置情報アプリがひとつのジャンルになるほどに数多く出展していたところを見ても、すっかり一般に定着したと言えるだろう。

車の上にカメラとレーザーセンサーを搭載し、画像に加えて周囲の施設の形状までも3Dでマッピングする「三菱モービルマッピングシステム」。いわゆる“Google ストリートビューカー”を3D化&高度化したものだ。周辺の立体データは点の集合として記録される。土地・建物などの建築物データはGoogleMapsや各種地図情報のように登録された不動産情報などからある程度揃えられるが、公式データにない新しい建造物まで、道を走るだけで取り込んでいける

測量といえばこんなブースも。舗装路などで見かける土地基準鋲や境界プレートがズラリ!

 GPSによる位置取得とともに最近注目を浴びているのが「3D表示」と「AR」(拡張現実)だ。会場のあちこちでデモされていた3Dでの地図表示には特に目新しい技術はなかったものの、昨今の3DブームやARへの単なる便乗というわけではなく、地図/航空写真と3Dは切り離せない深い関連性がある。

キヤノンによるARのデモ(キヤノンは“MR:Mixed Reality”と呼称する)。モニターを覗き込むことで、ミニチュアの恐竜が視界にインポーズされる仕組みだ


パスコ(PASCO)によるARデモ

地図情報サービスのパスコ(PASCO)によるARデモ。地図上に置かれたタイルにランドマークが乗り、動物などもアニメーションする。ARによる地図情報の見せ方が今後どのように進化していくか、大いに注目したい

旺文社のMapple

地図販売各社も、進化した地図情報を大きくアピール。カーナビこそ、地図上に情報コンテンツ(ガソリンスタンドやコンビニなどの店舗情報など)のレイヤーを多数搭載して、それをどう見せるかというG空間利用を真っ先に進めたジャンルである。旺文社の「Mapple」はカーナビへの地図提供を進めるだけでなく、先頃発売されたパナソニック「旅ナビ」で観光地ガイドとリンクさせるなど、G空間を有効活用するひとつの方向性を示している

 標高データを用いた立体模型地図によって地形を把握するのははるか昔から行なわれてきた手法だし、3Dステレオ写真が初期に実用に供されたのも、第二次世界大戦時に航空写真を3Dで見ることで「地上の偽装を判断するため」だった(当時は地上に工場や兵器の絵を描いたりしていた)。旧来の二次元(平面)の地図から、標高や建物の高さというデータを備えた斜投影や3Dの立体表示地図、さらにさまざまな施設などの情報を視界内にインポーズするAR技術の“見える化”と、地図が進化を遂げているわけだ。

GPS連携の地図作成は陸上だけではない。東亜建設工業の「自動ベルーガ」(写真左)は、GPSとソナーを用いて海底や湖底の地形を自動でマッピングするシステムだ。船で曳航しながら海底をより精密に測定する「ベルーガ・ディープ」(写真右)とともに、今後の海洋開発に役立ちそうだ

日本近海の海底地形を3Dメガネで見る

日本近海の海底地形を3Dメガネで見るコーナー(右上が東京湾で、駿河湾に食い込む駿河トラフがよく分かる)。このほか横浜市内の空撮写真などもあって、地図や航空写真を3Dで見ることで新しい驚きがある

 各種の情報レイヤーを重ね合わせた地図――地理情報システムの本格な利用は、阪神・淡路大震災をきっかけに始まり、国や自治体の災害対策などとして進んできた。といっても自治体や研究機関など向けで、一般ユーザーには普段あまり接する機会はなかったが、スマートフォンや3D、ARサービスの普及によって去年あたりから一気に身近なものになった。

 地図上のデータの見える化と同様に、これまでの自治体による災害対策や企業での業務利用だけでなく、地理情報という概念をより広く一般に認知させるための“見える化”が本イベントの重要なコンセプトであることを考えれば、連休を利用して会場を訪れる親子連れなども多く、なかなか成功したイベントとなったようだ。


子供に簡易GPSロガーを持たせての行動実態調査

子供に簡易GPSロガー(GPS端末)を持たせての行動実態調査や、子供にとっての危険場所(声かけ事例の発生地点など)を地図上に表示するアンケート調査なども行なわれていた

スタンプラリー

会場ではスタンプラリーなど子供にも楽しめるイベントが各種用意された。会場は屋内のためGPS測位ではなく、GPS信号と同じ信号を屋内設置の送信機から発信することで擬似的に位置情報を提供する「IMES」が用いられた。また、無線LAN信号の受信強度差を用いた屋内測位環境を構築するなど、展示とイベントを兼ねた実験も行われている。また、屋外会場では古地図を参考にしながらの横浜市内ウォーキングや測量コンテストなど、幅広い層に楽しめるイベントを実施していた

会場の上を遊弋する第一航業の気球

会場の上を遊弋するのは第一航業の気球。測量・地図作成などに使われる航空写真だが、この気球の下にはデジタルカメラがぶらさがっており、ラジコンで向きやシャッターを制御する簡易空撮システムになっている


アスキー総研のセミナーも開催!

 各種シンポジウムやセミナーに加え、G空間をアピールするステージイベントも多数実施された。こちらは、アスキー総研の遠藤 諭氏と長州小力氏による「アスキー総研プレゼンツ 位置モノガジェット&アプリ大賞!」の模様。

 大賞に選ばれたのは、街中ですれ違った人に一目惚れしたときに位置時刻をマークアップして、相手も同様のマークアップしていれば連絡が取り合えるというiPhoneアプリ&サービス「hitome.bo」だ。

hitome.boを開発したユーマインド 小野川 舞さん

「地理情報システムGIS」などと呼ぶとどうも堅苦しく膨大な情報データベースを思い浮かぶが、人と人との出会いというコミュニケーションの原点を位置情報で橋渡しするというアイデアが評価された。左から2番目が、hitome.boを開発したユーマインドの小野川 舞さん


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