300mの高さに苦しめられた参加者たち
日本大学青木研究室所属「青木研I」、クライマーの名前は「CAL」だ。初日ではいきなり振動で部品が落ちる。コンデンサも飛んで中止。3日目は、スタートから4~50mの位置で煙を吹いてストップ。相次ぐ熱トラブルに苦しめられた。
往復の昇降はならなかったものの、条件の変わりやすいテザーの状態に対し、クライマーをテザーに取り付けるガイド部分などの調整をしやすいようにした設計が評価され、最終日の評価で部門別賞「対環境賞」を受賞した。
Earth-Track-Controllers(E-T-C)は、チームリーダー土田氏をはじめ、現役の航空宇宙エンジニアが所属する社会人チーム。海外での経験を持つチームだけに、今大会でも本命チームのひとつと言えるだろう。
初回の競技開始時は、インストール(テザーへのクライマー取り付け)が速い! 他チームを圧して1~2分で取り付け、上昇もスムーズで安定している。これは経験の勝利か? と思わせたが、ゴールまであと100m以下と思われる位置で動きが見られなくなる。「昇ってると思うんだけど……」と案じるメンバーだが、残念ながら途中で停止していた。
原因はローラーに巻き付けたラバーが全部焼き切れていたため。もともと、E-T-C構想では、ラバーは消耗品。実際に宇宙エレベーターの実機を想定し、ラバーを1回ごとに交換すると考えて、大量に巻きつけていた。しかしそれでも足りず全部焼き切れてしまったのだ。
2回目の挑戦では、テザーがかなりたるんで横方向になった状態だったが、メンバーはプロポ(送信機)を持ってクライマーと共に走って移動。「6m/secで走れる?」「それ4th Dimensionスピード」などと会話を交わしながらデコボコで雑草の生えた競技会場をひた走る。
インストールも上昇も相変わらず速いのだが、目視であと20m(?)程度の位置でスタック。プロポの限界(送信機の電波が届かなくなる)と思われたが、実はバッテリー切れだった。ゴールはならなかったものの、インストールが際立って速い設計が評価され、部門別賞「メンテナンス賞」を受賞した。
意外な問題点!? 上空300mにはプロポの電波が届かない
大学研究室チームが多いなか、社会人有志で昨年から頑張る「チーム奥澤」。クライマー「momonGa-2」はカメラで自分の状態を把握できる機能など、USB接続で各種デバイスを実装できるという仕様で、リモートセンシングを意識した意欲的な機体だ。
初日最初の挑戦では、風でテザーがたるむと下降する機能が使えなくなるため、垂直上昇だけ試み、記録なしでゴールした。部門別賞「多機能賞」を獲得する。
初参加の磯子工業高校「えりたけんちゃん」チームは、インストールを終えスタートしたものの、思うように進まない結果となり競技を中断。記録はならなかった。
「The 4th Laboratory」も社会人チーム。クライマー「呑龍」は全長約1.5m、9kgと大きさ、重量が印象的な機体だ。JSETEC会場でやっと完成したというが、初日のチーム奥澤の競技を見て、地面に叩きつけられるダメージを軽減するため、急きょダンパーを追加するなど、調整力が凄い。他の技術競技会への出場経験があるという強みだろうか。
上昇を開始したものの、テザーを噛んでしまい途中停止。テザーを誘導するガイドの樹脂部分がえぐれていた。最後の挑戦ではテザーのたるみ部分で地面激突があったものの、追加したダンパーが効いたのか、そのまま順調に上昇開始。ところがあと数十mのところで「煙吹いてる!」の声が。どうやら過電流でケーブルが燃えたらしい。クライマーは停止し、競技中止となった。
初参加の東海大学所属「宇宙エレベーターレースチャレンジ」は、競技条件が厳しいなか、棄権となった。同じく初参加の日本大学入江研究室「HARO」は赤外線センサーを取り付ける予定で、そのためにクライマー全体を球状のカバーで覆うという独自設計だ。しかし風が強くテザーがたわんでしまい、スタートから30m程度で停止すること2回。ついにはベルトを噛んでしまい、競技中止となった。
東京電機大学所属「TDU Fujita Lab」も初参戦。「クライマー01」は風でテザーが横方向になった部分を越えて上昇を続け、初挑戦ながら期待を抱かせた。しかし上空74mに到達したところで、どうやらプロポの電波が届かなくなり下降に転じる。さらにバッテリー切れで途中停止、クライマー回収となった。
このチームに限らず「プロポの限界」は参加者にとっての共通の課題であることが判明している。
神奈川大学江上研究室所属「神大江上研A」。クライマー「KSC-III」は昨年好成績を残したチームだけに期待されたが、初日は調整がうまくいかず競技を中断。3日目に再挑戦したが、ゴール手前で途中停止となってしまった。
なぜか音の良く聞こえるクライマーで、モーター音の変化もわかる。「何の変化なんだろうね?」「少し滑ってるんだと思う」とチームメンバーは音による人力センシングを試みていた。「ねじれのところで減速してたね」とのコメントも。この方式が通じるのも300mまでかもしれないが。
トラブル、クラッシュ……優勝候補の海外勢も苦戦
ミュンヘン工科大学は、昨年優勝の本命チーム。力強さを感じさせるクライマー「WARR」だが、今年はトラブル続きだった。
1回目のトライでは地面に激突。補修の上、テザーが吹き倒された部分を避けて、垂直に立ち上がるあたりから記録度外視で再トライするも中断。最後にもう一回トライしたが、なんとバルーン手前のバンパー(クライマーが暴走した際にバルーンを保護する緩衝材)に突っ込み、はまって抜けられなくなるというトラブルで途中停止となった。
今大会の新機軸は、エキシビジョンとしてロープ状のテザーへのチャレンジが行なわれたことだ。エドワーズ博士の宇宙エレベーター構想がリボン状のカーボンナノチューブテザーを想定しているため、テザーといえばリボン、ベルト状、という意識が共有されているが、実際に建造する際にはリボン状になるとは限らない。
米国のPowerBeamingコンペではロープ状のテザーを採用していることもあり、経験を持つカナダのサスカッチュワン大学チームがロープテザー競技に参加した。
2日目に行なわれた競技では、クライマーが驚異のスピードを! と思ったとたん、なんと制御を失って滑り落ちてくるアクシデントが起きた。部品が落下し、テンションがまったくかからなくなって空周り。地面にバウンドしてモーターが吹っ飛んだ。
海外勢は実力も凄いがトラブルも派手だ。しかし3日目の再挑戦では、力強い、そして圧倒的な上昇を見せる。260mを45秒07。これが実力か、というのが正直な感想だ。
果たして完走クライマーは誕生するのか?
本大会で成績を残したのは、静岡大学山極研究室所属「SATT」チーム。クライマー「うなぎのぼり」は3日目の挑戦でゆっくりだが確実に上昇開始、ゴールに到達した。
ところが下降時に何かひらひらと落ちるものがある。回収してみると、ローラーに巻いたゴムシートの一部だ。このためテザーを保持する力がなくなり、スピードの記録は得られなかった。しかし、ゴールした点が評価され、総合第三位を獲得した。
競技2日目、最初に上昇・下降を成し遂げたのは日本大学羽多野研究室所属チームだ。クライマー「SAKURANA」は、ゴールを越え、バンパーに3回当たるとゴールを認知、降りてくるという仕組みで、自律性を意識した構造となっている。
最初のトライではこのゴール認識スイッチが風圧で押されて上昇ストップというトラブルに苦しめられるが、再調整の後、6分26秒という記録を出してゴールした。下降途中でバッテリー切れとなったもの、自動制御の機構が評価され部門別賞で「制御賞」、そして記録により総合第二位となった。
3日間を通して唯一の完走クライマーとなったのが神奈川大学江上研究室所属「神大江上研B」チーム。クライマー「KSC-V」の上昇記録は2分36秒。過酷な環境を制し、3日目に往復を成し遂げた。
E-T-Cに次いでインストールが速いのも特徴だ。大会直前に行なわれた神奈川大学のオープンキャンパスでデモンストレーションを行ったところ、「インストールが遅くて各方面から苦情が入り、あわててテザーガイドをワンタッチに作り直しました」という勢いも力だろうか。部門賞「スピード賞」及び総合優勝を獲得した。