「離婚も辞さない」と書かれた日記も見せる
―― それでは渡邊氏について伺います。興味を持たれたのはどんなところですか?
高杉 起業家精神を最初から持っていたところですね。小学校5年生のころ、お父さんの会社が清算されるところを見ているわけですし。
―― 起業家精神というのは「オーナー社長の精神」ということでしょうか。
高杉 ええ。いままでの「ワタミ」でやったことを見ると、全部の着想は彼ですよね。オーナー社長のパワーを出していると思います。本にも書きましたが、「響の屋」で初めて新しい社長、桑原氏にまかせています。ですから、これからは変わると思いますよ。
―― これまでに見てきたオーナー社長たちと比べて、どこが印象的でしたか。
高杉 やはり若いということですね。ダイナミズムがある。だから、ただの飲食店だけではなく、色々なことに興味がある。たとえば、カンボジアで作った学校は、他の事業とはかなり違いますよね。ですが、そこも渡邊さんらしいというのかな……孤児たちの姿を見て、少しでも役に立ちたいという気持ちがあったんだと思います。
―― 「良いこと、好きなことをやりたい」という思いは誰にでもありますが、感情とビジネスのバランスが難しいところだと思います。ビジネスは感情をコントロールして初めて成立する気がするんですね。
高杉 渡邊さんの場合、好き嫌いがあるのはもちろんなんですが、イヤなところを隠そうとしないんですよね。そこが普通の人とは違うところだと思います。イヤなところがあったら、(書籍に)書かれたくないじゃないですか。でも、それをすべてオープンにしてくれる。ぼくに自分の日記を見せるくらいですから。
―― 日記をですか?
高杉 これは前の作品(「青年社長」)なんですけど、こういうことがあって。自分の誕生日、少し遅くに帰ったとき、奥さんも子どもも寝ちゃっていたと。そのときの日記にね、「離婚も辞さない」と書いてあったんですよね。それを見せてもらったときはビックリしました。自主規制をするのが当然でしょう、それは。そんなことがたくさんあったんですよ。
―― 普通の経営者は「弱みを見せたらダメだ」と構えてしまいそうな気がします。
高杉 渡邊さんは、部下に弱いところも強いところもさらけだすタイプなんでしょうね。創業者というのはそういうものだと思いますよ。「まずオレについてこい」というのがあるわけですが、自分を超えてほしい、人を育てたいという気持ちもあるのです。
―― なるほど。だれかに思いを伝えたいという感情が初めにあるわけですね。
高杉 「青年社長」というタイトルは、彼が新しい事業を「持ち株会社」にして(社員を社長にして)任せているという意味もあるんですよ。若い人を登用しているわけです。お前に任せる、その代わり連絡は密にしろ。そこもやはり「育てよう」ということなんです。