ゲーム会社としての考えをリセットする
―― 難点は、どこに収益を持ってくるかだと思います。
配野 悩みましたね、どうすればビジネスになるのか。ゲームのプレイヤーから100円もらう、ゲームの作り手から100円もらう……という形も考えてました。でも、最終的に決めたのは「ゲームでお金はもらえない」です。ゲームメーカーとしてそこをあきらめようと。
そこでニコニコ動画を見てみると、アバターや、SNSとしてのコミュニケーションが希薄だった。「コミュニケーションを求めないのがニコ動ユーザーなんだ」という意見もあって、やったことはなかったわけです。そこにトライしてみようと。
―― 最初からアバタービジネスだけ考えていたわけではなかったんですね。
配野 当初は「クリエイターに還元を」ということも考えたんですよ。ただ、プレイしようと思ったら100円でもお金を払うわけじゃないですか。それがたった2秒でクリアできるようなゲームだったら「こんなサイト二度と来ねえよ!」ということになりかねない。
ぼくたちはもちろんゲーム会社として、ゲームを売っていた。それまでに出したゲームを信頼して、ユーザーに「先行投資」をしてもらっていたわけです。だから「金返せ」と言われることもあるし「面白かった」と言われることもあった。でも、それとは(ニコゲーで作ったゲームは)やっていることがまったく違うと思うんです。
―― そうやってニコゲーのシステムを作る上で、最も苦労したところは。
配野 ゲーム会社としての考えをリセットすることですね。5800円するソフトには、「作り込み度」があるんですよ。でも、その考えでやっていくとひたすらゴージャスな作りになってしまう。それじゃダメなんです。
たとえばゲームの場合、1つのボタンを押すだけで、すごいエフェクトがかかったり、音が鳴ったりするじゃないですか。でも、ウェブでそんなの見たことないですよね。そういうところをウェブ、「利用は無料」に合わせて考えていこうと。
―― ゲームソフトではなくウェブサービスを作るというのは、技術の面でもかなり戸惑いがあったのではないかと思います。いわゆる「常識」が違うわけですよね。
配野 そうですね。この記事をウェブ屋さんが見たら「バカじゃねーの」と思うかもしれないんですけど、技術は「後」なんですよ。こういうことができたら面白いね、というのを企画にする。それにあわせたウェブの技術を探す。そういうやり方にしたんです。
はじめは逆だったんですが、「ウェブだとこれが常識」にぶつかって、止まっちゃったんですよ。アバターがそうです。普通に考えたら、アバターって位置動かせないじゃないですか。それが当たり前だと思ってる。え、なんで動かしちゃいけないの? って。
―― なるほど、たしかに言われてみればそうですね……。
配野 「そもそもアバターってなんで人なの?」ってことでした。木が1本立っててもいい、人のアバターにしても、3~4人いたっていいわけじゃないですか。それがプレイヤーのアイデンティティになってればいいんだから。生きてなくたって構わないわけですよ。「ぼくは岩のような人間です!」ってことで、岩を置いてもいいわけで。
―― ウェブの常識を疑うところから、逆にゲームメーカーらしい面白さを作っていくと。
配野 別に男だからって、男の恰好しなきゃいけないわけじゃない。女装する人もいていいと思うんです。だから、色々やっていきたいですね。アバターにモザイクをかけたり、背景を公衆トイレにしたりとか……。他じゃムリでも、ここでなら許される、買っちゃうかもしれない。そんな、きわどいところも狙っていければと思っています。