リスクを取って人が動けるしくみ作りを
日本経済が20年にわたる長期不況から抜け出せない一つの原因も、ここにある。銀行の融資で営業するような中小企業というのは、小売店や飲食店あるいは大企業の下請けのようなローリスク・ローリターンの業態で、経済成長のエンジンになるようなものではない。成長するには従来の企業にないイノベーションによって高いリターンを上げる必要がある。そういう事業はリスクも高いので、年利10%といった融資では貸し倒れ損失をカバーできない。
したがって日本でも、成功したら何倍にもなる株式による資金調達を増やさないと、ハイリスクの投資は活性化しないが、個人金融資産1400兆円のうち、ベンチャーキャピタルの資金は1兆円程度といわれる。家計貯蓄の0.1%にも満たない資金でさえ余るほど、日本には投資意欲がないのである。この原因は日本経済の将来に対する見通しが暗いこと、高齢化や少子化で市場が縮小してゆくことなどが考えられる。
根本的な問題は、日本ではそもそも起業が減っていることだ。日本の開業率は、高度成長期には10%以上あったが、90年代以降は5%を下回り、廃業率より低くなっている。企業の新陳代謝がないので、新規の資金需要もないわけだ。このボトルネックを解消しないで、政府が「成長戦略」と称して技術開発などに補助金をつぎこんでも意味がない。必要なのは、起業や転職などによってリスクを取れる環境をつくることだ。
日本の社会は、終身雇用や系列取引などによって人々が長期的関係を結び、情報を共有して協力することを容易にしてきた。それは従来型の製造業では高い品質や不断の改善といった長所になったが、変化の激しいデジタル技術の世界では、こうした長期的関係は変化に対応する障害になる。
特に労働市場が長期雇用を前提にしているため転職が困難で、起業のリスクが大きい。長期的関係によってリスクを最小化するしくみが、かえってそこから排除された人々のリスクを非常に高くしているのだ。これを是正するには、長期雇用を前提にした年金・退職金制度を改め、解雇規制を緩和して雇用コストを下げるなどの改革で、人が動きやすくする必要がある。人が動けば、金も動くようになるだろう。しかし菅首相が「雇用が第一」と称して、補助金で社内失業を奨励したり古い企業を延命したりしていては、日本経済が立ち直る見通しは当分ない。
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