アプリ開発と、シンガポールと神戸の先輩
いよいよApp Storeに登録するアプリの開発へと着手することになった渡辺祥太郎氏。アプリ第一弾として出したのは「エフェク太郎~効果音集~」というアプリである。画面に表示されたイラストのボタンを押すと、そのイラストにちなんだ効果音が鳴るアプリだ。学校での友人との会話の中で遊べたり、劇の効果音として使うことも出来るこのアプリは、どこか、渡辺氏の高校の教室の中での楽しげな風景が浮かんでくるようだ。
しかしこのアプリを出すまでには苦労があった。アプリをApp Storeに掲出するために必要なアカウントを取得するには、18歳以上でなければならず、彼は最初のアプリを作った当時はまだ15歳だったのだ。そこで彼はある目標にしていた人物に連絡を取ることを決めた。Tehu氏である。
Tehu氏は神戸でアプリ開発をしている中学生。僕も会ったことはあるが非常に長身でまじめそうな男子だ。彼もまた18歳以下でアプリをリリースしている開発者であり、どのようにすれば自分の名前でアプリが出せるようになるか、というノウハウを教わったという。そのTehu氏自身もまたシンガポールの9歳のアプリ開発者のニュースがきっかけで「自分にもできるはず」とiPhoneアプリに取り組み始めた経緯がある。
若いパワーがシンガポール、神戸、千葉と連鎖しながらそれぞれをチャレンジへと向かわせているダイナミズムには、驚きと同時に強い期待感を抱かずにはいられない。こうしてTehu氏のノウハウも参考にしながらまず1本、効果音アプリをリリースした渡辺氏。そのときの印象を次のように語る。
「初めは『出た!!』という自己満足感がとても強かったんです。ただ、とりあえず出しただけではダメだなということも同時に感じた印象でした。今はいろいろなイベントに参加するようになりましたが、アプリを出して、それをひっさげてイベントでいろんな人と話をすることの面白さや重要さもとても勉強になりました。出すだけではなく、PRも必要だなーと」(渡辺氏)
次にApp Store向けに作ったのが「借金時計」。日本の借金が増えていく様子をカウンター表示しているアプリで、コードを書くのに2時間、デザインに6時間かけたという。なぜこのアプリを作ったのだろうか。
「父の仕事の関係もあって小学校の高学年をニューヨークで過ごしたのですが、ニューヨークのマンハッタンの街中で、ニューヨーク市の借金がカウントアップされていく様子がとても印象的でした。また自分の国の将来についても気になることがあったので、借金時計を作りました。年始と年末の予算と決算を取って、時間で割るという簡単なプログラムでしたが、今まであまり気にしていなかったデザインにはとても時間をかけ興味がわいてきましたね」(渡辺氏)
このアプリはIT業界で反応があり、メディアで取り上げられたりしたそうだ。前回のアプリで気にしなかったPRの面でも上々かと思われたが、実際ふたを開けてみると、効果音アプリの方が借金時計よりも10倍以上ダウンロードされているそうだ。
「PRも大切ですが、受け入れられるアプリには、アプリそのものの使いやすさ、デザイン、シンプルに使えるという要素が、アプリには大切なのだな、と思いました」(渡辺氏)
こうして神戸の中学生Tehu氏や、その先のシンガポールの9歳の開発者と実際に、あるいは精神的につながりながら、アプリ開発に取り組んでいる渡辺氏。2010年夏はそのスキルをさらに高めるべく、修行の旅をしに海を渡ることを決めるが、そのときの話は次回の後編で。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナリスト・企画・選曲。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。嘉悦大学、ビジネスブレイクスルー大学でも教鞭をとる。テクノロジーとライフスタイルの関係を探求。モバイル、ソーシャルラーニング、サステイナビリティ、ノマドがテーマ。スマートフォンに特化した活動型メディアAppetizer.jp編集長。自身のウェブサイトはTAROSITE.NET。
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