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山谷剛史の「中国IT小話」 第79回

中国人消費者にはOEMより不人気な独自開発製品

2010年09月07日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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中国メーカー独自開発の製品よりOEMのほうが高品質!?

私模であることをアピールするmp3プレーヤー(左)とUSBメモリー(右)

 私模機はOEM製品である公模機に比べ値段が高い反面、製品開発力があるということで、無名工場も中小メーカーも私模機をリリースする場合は、私模機であることをしっかりとアピールする。

 メーカーにとっては「私模機」だとプラスのイメージがあるようだ。ノンブランドの私模機は公模機(のガワ)に比べれば生産数が少ないために、中国全土で流通することはなく、深セン以外でのノンブランド品の私模機は店頭では入手は極めて難しい。その希少性から、何かの会で配る記念品として購入しようとする消費者も少ないが存在する。

新製品でかつ私模をアピールするマウス。ハローキティが描かれている

新製品でかつ私模をアピールするマウス。ハローキティが描かれている

 日本の消費者から見れば、ある製品が「台湾や中国企業によるOEM製品」だとすると、日本のメーカー工場で作られた製品よりも品質がよくない、つまり中国風に言い換えれば「私模機は公模機よりも高品質」という印象を持つかもしれない。

 ヘビーなPCユーザーやIT関連のモノ作りに携わっている人にとっては、「OEM製品(公模機)はメーカー工場で作られた製品(私模機)よりも、品質が安定している」、つまりは日本と逆で「公模機は私模機よりも高品質」と認識されている。

 PCやインターネットが中国で本格的に普及し始めたのは21世紀に入ってからだが、この10年に満たない間、いやここ2、3年だけを見ても、多くの独自開発製品をリリースする「愛国者」「紐曼」(Newsmy)「藍魔」など、主要な中国周辺機器メーカーの製品の故障率は高いことが何度となく報じられている。

 そして故障に関する情報が口コミやネットの書き込みにより多くの人々に伝播したため、消費者の本音のところではメーカーの意図に反して「中国メーカー独自開発の製品はOEMよりひどい」「OEMのほうが大量生産していてよほど安定している」という認識がされているようだ。OEM製品に独自に塗装を施すだけの処置をし、私模機だとアピールする中堅メーカーも存在している。


自社でガワを開発してもどこからともなく山寨機が……

業者向けに様々なガワの販売仲介をする公模外殻網

業者向けに様々なガワの販売仲介をする公模外殻網

 ノンブランドの工場にしても、私模機を作るためにオリジナルのガワの金型を作り、一定数生産するも、それでも開発費の元が取れないので、別の工場に私模機を売り渡すというケースが多々あるという。

 すると当初製品はオンリーワンのデザインであったのに、いつの間にやら同じガワを使った山寨機がどこからともなく登場し、希少性に期待した購入者が泣きを見ることになるわけだ。

 私模機(メーカー独自開発)は本来プラスの意味に動くはずが、打てど響かぬ言葉となってしまっている。多くの企業が「自分だけ抜け駆けしても大丈夫だろう」と、企業モラルを欠いた行動をとった結果、単語に説得力がなくなってしまったのだ。

 とはいえこれは中国国内の話。インドや中東や東南アジアの人々が訪れる深セン電子街だからこそ、中国国外では「オリジナルの限定生産製品ですよ!」というかけ声がウケて私模機が人気になる……かもしれない。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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