企業で注目を集めるiPad
iPadの供給状況が安定しつつあるのに伴い、iPadをビジネス利用しようという動きが徐々に広がってきた。
すでにコクヨが1500台のiPadを営業部門に導入すると発表。大塚製薬もiPadを1300台導入して、すべてのMR(医薬情報担当者)に携行させるほか、パチンコ機器メーカーのフィールズが350台を全営業社員を担当に配布。最終的にはグループ全体で1000台を導入する計画であることが明らかになっている。
さらに、不動産情報サービスのアットホームは今年秋をめどに不動産仲介業者向けに、不動産情報を網羅したファクトシートの情報サービスを開始。その端末としてiPadを活用する姿勢を示している。
また、トステムでも営業担当者や代理店が利用するための商品カタログを電子化して商談の現場でiPadを利用できるようにする。そのほか、富弘美術館、しゃぶしゃぶ料亭「安曇庭」といったように、B2Cの環境でiPadを利用するといった動きもある。
米セールスフォースのマーク・ベニオフCEOは自らiPadを持ち、その端末だけを持ち全世界を飛び回っており、6月から出荷した次世代コラボレーションツール「Chatter」を活用するといったデモストレーションにも活用している。こうした動きもユニークだといえよう。そして、iPadを使用する社員に対して補助金制度を実施するという企業が日本でも出てきている。
一方で、試験導入も相次いでいる。
アパレルのニューヨーカーは店舗におけるバーチャル試着ツールとしてiPadを試験導入。みずほ銀行もロビーにおける待ち時間を有効利用するためのツールとして、また窓口のスタッフ支援ツールとしての用途に活用。
中古車販売のガリバーでも商品情報を閲覧するためのツールとしてiPadを試験導入した。これらの企業では、試験導入の結果を踏まえて、本格的な導入を検討していくことになるという。
直感的な操作感はプレゼンテーションに最適
1300台のiPad導入を決定した大塚製薬の場合、MR(医薬情報担当者)がiPadを所持し、対面による医療関係者向けの製品説明用資料や、MRの自己学習用の教材として活用する。
「iPadは、起動が早く、軽量、かつ画面が大きいなど、医薬品の情報提供の場面に適した、利便性を高める多機能情報端末として、さまざまな特徴を兼ね備えている。日々多忙な業務に携わる医療関係者が、タッチパネルの操作により、瞬時にビジュアル化された書籍や動画を通して、対話型プレゼンテーションを充実することができ、また、ネットワークとの連動により、MRが常にアップデートされた最新情報を携帯することが可能になる。MRの情報提供活動の質とスピードの向上を目指す」(大塚製薬)
一方、コクヨでは、営業部門やプロモーション部門、ボードメンバーなどに対して、まずは約150台のiPadを試験導入。効果検証を行った上で、来年度から年間約1500台の本格導入を目指す計画だ。
ここでは以下のような内容に取り組む
- 動画や3Dイメージなど活かした訴求力のあるプレゼンテーション
- シンクライアント環境構築による営業社員のPCレス化、顧客対応の迅速化
- 画面に触れてページをめくる感覚で、しかも場所を選ばずに閲覧できる商品カタログ
- 経営会議をはじめ、主要な会議のペーパーレス化
- 軽量、大画面、操作性のよいタッチパネルといった特長を活かしたライブオフィスの案内用端末
「iPadが持つタッチパネル方式の直感的な操作によって、動画や3Dイメージなどを用いたプレゼンテーションを展開し、顧客への説明をより充実させることができると期待している。また、クラウドとの親和性を活かしてシンクライアント環境を構築することで、セキュリティの向上を図るとともに、顧客に対するより迅速な情報提供を目指す。このほか、経営会議などの主要な会議をペーパーレス化することで、運営の効率化と印刷経費の削減が可能になり、また、当グループが展開するオフィス兼ショールーム“ライブオフィス”の案内用端末として活用することで、顧客に対する説明の充実が図れる」(コクヨ)
同社では、将来的には、仕入先、販売店、さらには顧客との間で、それぞれにとっての利便性を考えたツールとして活用することを検討していく考えだ。
iPadなら失礼な印象を与えにくい
導入を計画している企業がiPadに感じた魅力は、ほぼ共通しているといっていい。
それは「起動の早さ」「操作性の高さ」、そして「長時間バッテリー駆動」といった点に集約されるだろう。
営業先などですぐに起動できることで、相手を待たせることなくiPadを使った商談をスタートできること、さらに、指でタッチすることで必要となる資料を呼び出し、相手に見せながら説明できるといったiPadならではの特徴は、多くの企業から共通して聞かれるメリットである。
例えば「PCでは起動時間が遅いことに加え、相手に見せながら説明するのに自分と相手の間の中途半端な向きに置かなくてはならなく、操作しにくいといった問題があった。だが、iPadは、ひっくり返せば相手の見やすい位置に起きながら説明ができる。複数の資料もすぐに呼び出すことができる」といった声がある。
また「iPhoneなどのスマートフォンでも起動が速いが、なにかを入力する場合、相手に対して失礼な形になる。iPadであれば、操作をしていてもあまり失礼な印象を与えない」といった声も聞かれる。
商談中にiPadでメールを書き、追加情報をその場で得て、商談に生かす──といった操作を見せても、それほど不快感を与えずに済むということだろう。
さらに、「店頭での利用では、PCの場合には設置している場所にまで誘導しなくてはならなかったが、iPadではお客様のいるところに本体そのものを持ち運ぶことができる。また、それを持ち歩いたまま接客できる。これまでのPCにはできなかった接客法が可能になる」という声もある。
加えて、iPadの直感的な操作環境は、PCの利用を敬遠していた現場や取引先に対しても導入を促進することになるという期待も高まっている。
Flash非対応のハードル、AppStoreへの不満
だが、その一方でiPadの企業導入にはいくつかの課題がある。
ひとつは、iPadのFlash非対応の問題だ。すでにPC上で利用しているコンテンツのなかには、Flashで作られたものも多く、デジタルコンテンツを有効利用したい企業にとって大きな課題となっている。
一部の企業では、iPadで動作するようにコンテンツを作り替えるという動きもあるが、その手間とコスト増に対しては不満の声があがっている。
もうひとつがAppStoreの問題だ。具体的には、AppStoreへの登録がアップル主導となっていることや、申請後に承認されるまでに予想以上に時間がかかること、アップルから申請が却下された場合にその理由などについて明らかにされないことなどだ。
取引先へのアプリケーションの配布や、B2C型のビジネス展開を行う際には、やはりAppStoreの活用は不可欠。効率的な方法で、最新の状況にアップデートしておく意味でもAppStoreの活用は避けては通れない。
だが、その登録が企業側の思い通りには進まないというジレンマがある。
「ソフトウェアにバグが発生してそれを修正したいという場合にも、改めてアップルに申請する必要がある。ビジネスツールとして活用する場合には、修正したものをいつから配信できるか時間が読めないことは大きな問題になる」
そして、「アップルの都合でAppStoreから削除される可能性も捨てきれない」という声もある。
一部の企業では、「試験導入はiPadで行うが、本格導入の際には、マーケットプレイスの基準が緩やかなAndoroidを利用することを考えている」という姿勢を示すところもある。
あまりにもアップル主導となりすぎたAppStoreが持つ課題は、今後、iPadのビジネス利用が促進される上で、大きな問題が表面化していく可能性もありそうだ。
アップルがなにしらの解決策を提示することを期待したい。
この連載の記事
-
第35回
ビジネス
首位を狙わないキヤノンのミラーレス戦略 -
第34回
ビジネス
NEC PCとレノボの合弁はなぜ成功したのか? -
第33回
ビジネス
シャープ復活の狼煙、その切り札となるIGZO技術とは? -
第33回
ビジネス
任天堂はゲーム人口拡大の主役に返り咲けるのか? -
第32回
ビジネス
日本IBMの突然の社長交代にみる真の狙いとは? -
第31回
ビジネス
脱ガラパゴス? 国内TOPのシャープが目指す世界戦略 -
第30回
ビジネス
これまでの常識が通じないAndroid時代のインフラ開発 -
第29回
ビジネス
ビッグデータは我々になにをもたらすのか? -
第28回
ビジネス
Macの修理を支える、老舗保守ベンダーが持つ“2つの強み” -
第27回
ビジネス
スマホ時代に真価を発揮する、多層基板技術ALIVHとは? -
第26回
ビジネス
富士通が「出雲モデル」「伊達モデル」を打ち出したこだわりとは - この連載の一覧へ