9月2日、WebエンゲージメントをテーマにしたNECビッグローブ、ロフトワーク共催のセミナー「成果を上げるWebインテグレーション」が開催された。「不況ではない。これが新しい標準なのだ」と言われる現在の経済状況を反映しているのか、会場となったゲートシティ大崎 ウエストタワー地下のセミナールームには「エンゲージメント」という道しるべに興味を持った多くの参加者が集まった。
講演ではロフトワーク代表取締役社長の諏訪光洋氏がテレビ中心の広報宣伝戦略がWeb中心に変わった現状を説明。「エンゲージメントが何か、実はアメリカ人もよくわかっていない。Web 2.0のように、本来こうだという概念が日本では実現されていないと日本人が思っている」という見方を紹介した一方で、「継続的な対話により、ステークホルダーとの関係を築くこと」という諏訪氏の解釈が示された。
NECビッグローブ ビジネスサービス事業部部長の山本隆範氏からは、
- チャネルミックスを最適化する
- 消費者自身がカスタマイズできるようにする
- コンテンツ自身を統合的に管理する
- 企業自身もプラットフォームに参加し、サポートする
- 今この瞬間を分析する
という5つのテーマでエンゲージメントの説明があった。一見すると以前から言われていることにも思えるが、航空会社やホテルなど、異なる業者から送られてきた旅程のメールを転送するだけで旅程表を1つにまとめてくれるTripItのように、消費者自身がカスタマイズできる機能が登場し、カスタマイズがもはや企業サイト内の機能に限らないことが紹介されると、ソーシャル時代のWeb戦略の複雑性に会場からは「うーん」といううなり声も聞こえた。
キヤノンマーケティングジャパン コミュニケーション本部ウェブマネジメントセンター所長の増井達巳氏からは、キヤノンマーケティングジャパンが実施しているWebマーケティング活動の資料が詳細に紹介され、計画、実行、評価、改善のビジネスサイクルを指標に基づいて実行している実例が示された。また、「自社製品の説明ページがGoogleの検索結果でカカクコムよりも下位に表示される」といった社内の意見に対し、「お客さまが他社製品と比較した上で自社サイトを訪れているとしたら、公式情報よりも比較サイトが上位に表示されることは、お客さまのコンテキストどおり。SEOにお金をかけてコンテキストをねじ曲げることに意味はない」といった社内の調整役ならではの逸話が披露されると、大きくうなずく参加者がいた。
エンゲージメントの意味は?
「エンゲージメント」という言葉は新たなバズワードと警戒する向きもあるが、今回のセミナーの内容を私なりに理解すると、日本にある3つの概念を合わせたものではないか、という気がしてた。
諏訪氏の示した「継続的な対話により、ステークホルダーとの関係を築くこと」をもう少し具体的にしようとすると、「ステークホルダー(利害関係者)」の中身が問題になる。ここで「一体誰と継続的に対話すれば、エンゲージメントが築けるのか?」という疑問にしてしまうと、エンゲージメントには一歩も近づけないだろう。企業にとっての最大の利害関係者は、従業員、取引先、お客さまであり、これら3者と良好な関係を築くことは当たり前の話だ。であれば、
- 組織の方向を1つに調整するため、根回しを通じて従業員同士の関係を強化する
- 製品を安定的に製造・供給するため、お付き合いを通じて取引先との関係を維持する
- 新規客を増やし、既存客を維持するため、おもてなしを通じてお客さまを満足させる
ことがエンゲージメントの中身であるはずだ。根回し、お付き合い、おもてなしという昔ながらの作法を「エンゲージメント」の概念で自覚的に運用し、Webを利用することで「面倒な根回し」「不要なお付き合い」「無駄なおもてなし」といった負のイメージを払拭することが、「Webエンゲージメント」の役割ではないだろうか。
なお、このセミナーは5回シリーズ。次回は11月9日開催予定なので、エンゲージメントが気になる人、Webマーケティングの方向に興味がある人は参加してみるとよいだろう。