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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第124回

電波開放から始まる「日本的合意」の崩壊

2010年09月01日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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日本は本当の法治国家になれ

 同じような問題が、前述のWGの検討している700/900MHz帯にもある。この帯域が国際周波数と違う割り当てになった最大の原因は、テレビ局の占拠している770~806MHzのFPUである。これまでの話し合いでも、ITSを含めて話し合いがついているが、テレビ局がFPUの既得権を譲らないため、今回の中間とりまとめも5案併記になってしまった。

 この問題について、先日NTTドコモの幹部から「700MHz帯は必ずしも国際的に統一されているわけではない」という指摘をいただいた。確かに欧州は別の帯域を使う予定だし、アメリカの割り当ても微妙に違う。またデュアル・モードにすれば対応できるというのもその通りだろう。しかしFPUは3日に1回しか使われていない。こんな既得権を認めてテレビ局のゴネ得を許したら、今後1.5GHzも開放させることはできない。

 この不合理な割り当てを総務省が再検討することになったきっかけは、ソフトバンクの孫正義社長のツイートだった。これを受けて原口総務相がWGによる再検討を指示し、その結果として電波全体の見直しが出てきたのだ。現場の電波官僚も、今のような方式が限界に来ていることはわかっており、「政治が周波数オークションをやると決めれば、われわれは従う」といっている。

 今まで電波部による「一本化」が成功したのは、通信産業のプレイヤーがNTTを初めとする古い企業だけに限られていたためだが、ソフトバンクやクアルコムのような「異分子」が出てきて、関係者だけの利害調整では一本化できなくなった。このような「日本的合意」の崩壊は、短期的には今回のようなもめごとを生み出すが、長期的にはいいことだ。

 日本経済が行き詰まっている最大の原因は、高コストで収益力の低下した古い企業がいつまでも居座って、新しい企業の参入をはばんでいることだ。これを打開するために必要なのは、「光の道」のようなインフラ整備ではなく、新旧・内外の企業を差別しないでインフラを開放し、競争による新陳代謝を促進することである。

 そのためには官僚による裁量を排し、価格メカニズムのようなルールで決める法の支配を貫くことが重要だ。電波行政で始まっている変化は、日本が本当の法治国家になれるかどうかの試金石である。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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