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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第11回

ビデオ・有料配信・ライブ型消費

変わるアニメ業界──「面白ければ売れる」なら簡単

2010年09月06日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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ビデオ販売の減少=メディアシフトの現れ、だが……。

 ビデオグラムの販売が減少を続けている背景に、メディアの力関係の転換があることは疑う余地はないだろう。「若者のテレビ離れ」が進んでいるとか、ニコニコ動画をはじめとするネット動画サイトの盛り上がりなど、それらしい理由はいくつも転がっている。

 よくネット上の議論などで見かけるのは、「ではネットで有料販売すれば良いじゃないか?」という意見だ。パッケージメディアが売れないのであれば、ネットの有料配信などのマネタイズを積極的に行なえば良いはずというわけだ。

 しかし、事はそう単純ではない。

 先ほどのグラフの「配信」を見てほしい。伸びは確認できるものの、全体に占めるボリュームはまだわずかで、ビデオの販売減を補うにはまったく至っていない。アニメ番組の有料配信をほぼ網羅する「バンダイチャンネル」やヤフー傘下となった「GyaO」といったプラットフォームがすでに存在しているにも関わらずだ。

 実はこの部分が、メディア・シフト全般が抱える共通のジレンマといえるだろう。電子書籍の話ととてもよく似ていて、既存分野の売上げ減少に対して、期待されるネット領域での販売がいまのところそれをカバーできていない状況があるのだ。


ライブ型メディアは救世主となるか?

 その一方で倍近い伸びを見せたのが「劇場」販売だ。ただし注意しなければならないのは、ジブリの大型作品が公開されるとこの数字は急激に上ブレすること。実際、2008年には主題歌も大ヒットした崖の上のポニョ(興行収入155億円)が公開されている。ポニョを除くと、倍どころか昨年を下回ってしまう。

 この連載でも取り上げていく予定だが、テレビではなく劇場を最初の展開の場(ファーストウィンドウ)として選択するアニメ作品が増えている。すでに音楽の分野では、設定価格が高く、またコピーも不可能な「ライブ型消費」に注目が集まっているが、映像においては映画の劇場公開がそれにあたるといってもよいだろう。

 劇場展開の弱点としては、シネコンプレックスが増えたとはいえ上映館数には限りがあること。テレビやネットと比べ視聴機会は限定され、誰もがそこでコンテンツを展開できるとは限らないことなどが挙げられる。これはライブ型消費全般の弱点でもある。地理的・物理的・時間的な制約は、「限定感」というプレミアムにもなる一方で、機会損失にも繋がる諸刃の剣だ。

 「配信」の売上げを増やすにはどうすればよいのか? もしくは、「劇場」のそれを一段と増やす方策は存在するのか?――こういった課題については、今後関係者へのインタビューなどでその解決の方向性を明らかにできればと考えている。繰り返しになるが、これはほかの分野のコンテンツにも適用可能なヒントになるはずだ。


アニメを巡る現状を俯瞰

 ここまではデータを元にアニメビジネスの現状を見てきた。かつて「コンテンツ イズ キング」という持ち上げられ方をした国産アニメーションだが、メディアの変化による影響とは無関係ではいられない。しかし、ほかのコンテンツ分野に比べ、メディアを横断的に活用していることから、取りうる選択肢も豊富にあると言える。

 次回は、コンテンツとメディアを考える際に必須とも言えるふたつの概念、「バリューチェーン」と「ウィンドウウィングモデル」を取り上げつつ、今まさに変化しようとするアニメのビジネスモデルについて考察していく。


著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+iPhoneでGoogle活用術」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto


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