ユニバーサル・サービスは「隠れた社会保障」
総務省は7月27日、「光の道」構想についての意見募集を行なった。これは当初は文字どおり光ファイバーを全国100%に普及させるという構想だったが、今回の「基本的方向性」ではケーブルテレビや無線ブロードバンドも含めた100Mbps以上のインフラを普及させる「ユニバーサルサービス」を実現するという構想になっている。
しかし現在、すでに光ファイバーの敷設できる地域は人口比で全国の90%に達しており、引きたくても引けない世帯数は500万世帯未満である。残っている部分は山間部や離島で、商業ベースでは採算がとれない。こうした地域にブロードバンドのインフラを引くには、何らかの形での公的支援が必要だ、と総務省のタスクフォースも指摘している。
このようなユニバーサルサービスへの公的支援は、本当にいいことなのだろうか。通信インフラの効率は地域によって大きく違い、光ファイバーの場合、都市と地方では最大7倍ぐらいコストが違う。高コストのインフラを地方にばらまいて公費で負担することは、結果的には地方のインフラ費用を都市部の住民に「課税」する所得再分配である。社会保障は厚生労働省がやるべきであり、通信インフラでやるのは非効率である。
たとえば東京都は昨年、小笠原海底光ファイバーケーブルに100億円を投じ、そのうち66億円を政府が補助する計画を決めた。八丈島から父島/母島まで約800kmにわたって敷設される光ファイバーを利用する人口は約2500人。1人あたり400万円の税金が投入されるが、もしこれらの島で光ファイバーと400万円の現金を選択させれば、ほとんどの人が現金を選ぶだろう。つまり彼らに政府が特定の通信インフラを押しつけることによって、そのコストを負担する東京都民(および日本国民)も小笠原島民も損をするのである。
このように特定の産業を税金で保護することによって行なわれる「隠れた社会保障」が、日本には多い。農業予算3兆円のほとんどは、農家への所得再分配だが、農家の所得は非農家より高いので、これは所得の低い納税者から農家に所得を移転する逆所得分配である。このような恣意的な所得移転によって日本の所得分配は、再分配前より再分配後のほうが不公平になっている。
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