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AzureもLiveもOfficeもすべてクラウドだ!

マイクロソフトのクラウド戦略に関する3つの誤解

2010年08月20日 18時00分更新

文● 塩田紳二

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エバンジェリストに聞く、
マイクロソフトのクラウド戦略

 ここでは、マイクロソフトでWindows Azureのエバンジェリストを務める、デベロッパー&プラットフォーム統括本部の砂金(いさご)信一郎氏に話を伺いつつ、マイクロソフトのクラウドについての実体を明らかにしていこう(以下敬称略)。


誤解その1:単純にクラウドへ移行すればいい?
――というわけじゃない!

砂金信一郎氏

デベロッパー&プラットフォーム統括本部の砂金信一郎氏

―― 今期は、「クラウドを本気でやる」という話なのですが、どういうことなのでしょうか?

砂金 当社のバルマー(米マイクロソフト社CEOのスティーブ・バルマー氏)が昨年9月に「クラウドを本気でやる」と言い出したとき、当社がすでに行なっていたオンラインサービス、たとえばHotmailなどのWindows Liveサービスも、クラウドの範疇として語られる機会が増えました。当社は、こうしたサービスをすでに15年以上も続けています。これはつまり、単にデータセンターを構築するだけでなく、サーバーの入れ替えといった運用上の経験を積んでいるということです。われわれが初期に使っていたサーバーは、CPUがPentiumでしたから(笑)。

 もうひとつ言えるのは、マイクロソフトや当社の関連サイトは、ある意味、世界で最も攻撃を受けるサイトでもあり続けました。もちろん、無事故というわけではありませんが、大きな事故に至ることはなかったのです。こうした経験やノウハウも、当社の「クラウド」製品になんらかの形で反映できるようになりました。

 ただし、これらのサービスはコンシューマー向けであり、エンタープライズ向けサービスは最近スタートしたものばかりです。Windows Azureを筆頭に、「SharePoint Online」「Exchange Online」などの「BPOS」(Business Productivity Online Standard Suite)を、現在提供中です。


 このように、クラウドOSとしてのWindows Azureだけに注力するということではなく、マイクロソフトのさまざまな「クラウド」に注力するというのが、われわれの基本方針なのです。

 中でも、マイクロソフトはWindows Azureへの投資を積極的に行なっています。たとえばシカゴのデータセンターは、まだ半分ぐらいのキャパシティ(収納容量)しか使っていませんが、ここ1ヵ所だけで日本のサーバー年間出荷の約2倍に匹敵する台数が設置されています。

砂金氏が説明したWindows Azureを使ったサービスの実例。Silverlight技術と組み合わせることで、W杯の出場選手を年齢や国籍などでグループ分けできるという「World Cup Pivot」(http://pivot.metia.com/worldcup/)


クラウド偏重時代にもの申す!
――マイクロソフトの強み=対称性とは?

―― マイクロソフトが提供するクラウドの訴求ポイントは何なのでしょう? やはり「マイクロソフトなら安心」というブランド力や技術面なのでしょうか?

砂金 エンタープライズ分野での当社のクラウドの最大の特徴は、「対称性」です。マイクロソフトの技術やOSを使って、ご自身でハードウェアを管理し、オンプレミスのシステムを構築・運用してもいいし、これをクラウド=Windows Azureに移行して、従量課金制で使ってもいい。これらの選択を可能にしたのが、当社のクラウドの特徴です。

 オンプレミスではWindows Server 2008 R2があり、クラウドのWindows Azureは、Windows Server 2008 R2をベースに構築された仮想サーバー環境を持つデータセンターです。同じシステムを、オンプレミスとクラウドのどちらでも動作するように作ることができるし、一旦クラウドに持っていったものを、オンプレミスに戻すことも容易にできます。他社では、すべてのサービスをクラウドに移行する提案を行なっていますが、そこが当社との大きな違いです。

 ユーザーのビジネスの発展やマーケットの変化などさまざまな理由で、クラウドとオンプレミスでの効率的な組み合わせが変わっていきます。そのとき、オンプレミスからクラウドへの一方通行しか用意されていなければ、どういうことになるでしょうか? オンプレミスにしたほうが、効率がよかったり、コストを削減できるとわかっていても、もう戻ることができないとしたらどうでしょうか? われわれは、少なくともここ数年のスパンでは、クラウドがオンプレミスを完全に置き換えるものとは考えてはいないのです。

同じくWindows Azureを使ったサービスの実例。既存の企業情報と株価情報、およびその会社の事業をわかりやすく説明することで、その会社の株に興味を持たせる「みんなの会社情報」(http://www.ir-service.net/)


誤解その2:Windows Azureって高いんじゃ?
――無料でも始められる!

―― とはいえ、クラウドへの移行に不安を持つ企業も少なくありません。理由のひとつには、自分たちで管理するシステムのコストは、従来の経験もあって比較的見通しやすいのに対して、クラウドを利用したときのコストは、従量制ということもあって見通しにくいという懸念があるかと思います。その点についてはいかがですか?

砂金 まず、これからクラウドを始めるというユーザーに向けて、無償でスタートできる「導入特別プラン」キャンペーンを行なっています(関連サイト)。最初はこれを使って、3ヵ月間無料で試すことができます。その間に利用量などの測定を行なえば、具体的な料金を見積もることも可能です。

 標準の課金プランは従量制ですが、一般的なデータセンターの利用料金に比べても、かなり安価な設定になっています。料金は「コンピューティング」(時間)、「ストレージ」(GB/月)、ストレージトランザクション(1万回あたりの料金)、ネットワークトラフィック(GB単位)などに分かれて課金されます。たとえば、ストレージは1GBを1ヵ月間利用して14.70円といった価格です。また、6ヵ月分パックにして割り引きしたプランも用意されています。このほか、“Microsoft Partner Network(MPN)”のメンバーや、MSDN Premium契約ユーザー向けの割引システムなどもあります。

 従量制ということは、ある期間の突発的な処理増大や、季節的要因による処理量の変化に柔軟に対応できるということです。これまでのオンプレミスなシステムでは、最大処理量や最大必要容量を基準にしてシステムを構築していましたが、クラウドならば処理量が少なければその期間のコストは下がり、必要になればすぐに容量や処理量を拡大できるわけです。


誤解その3:マイクロソフト製品でそろえないとダメ?
――オープンソース技術も利用できる!

―― Windows Azureを選ぶと、マイクロソフトの技術で固めなければならないと考えて、及び腰になるユーザーも多いようですが、この点はどうでしょう?

砂金 Windows Azureでは、手間がかかるケースはあるものの、マイクロソフト以外で開発されたオープンソース技術なども利用可能です。たとえば、PHPやMySQLといった技術を利用したシステムの構築も可能です。開発には、Visual Studioだけでなく、Eclipse(オープンソースの統合開発環境)なども利用できます。どちらも、ローカル環境でのエミュレーターによる動作が可能で、開発途上の一定段階までなら、実際にWindows Azure上でアプリケーションを動作させる必要すらありません。

 ちなみに、まだあまり知られていませんが、Windows Server 2008 R2などでもこうしたオープンソース技術が利用可能であり、同様にAzureでも可能というわけです。もちろん、すべてのオープンソース技術が利用できるわけではありませんが、われわれマイクロソフトとしても、対応可能な範囲を広げるよう努力しています。


 (次ページ、「Windows Azureを読み解く新キーワード」に続く)

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