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テクノロジービジネスフォーラム2010基調講演

総務省が考えるクラウド普及に向けた課題とは?

2010年08月06日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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8月5日、東京ミッドタウンにおいて日本技芸、アジャイルメディアネットワーク主催の「テクノロジービジネスフォーラム2010」が開催された。「クラウドという選択」をテーマにしたイベントの基調講演では総務省情報通信政策課長 谷脇康彦氏が日本のクラウド戦略についての概要を解説した。

ICTの利活用で後れをとる日本

 今回開催された「テクノロジービジネスフォーラム2010」は「クラウドという選択」をテーマに、プラットフォーム、サービス、ビジネス・ソリューションという3つのトラックで各社のセッションが行なわれた。主催者となる日本技芸の御手洗氏によると「クラウドがすでに普通のモノになっているにも関わらず、パブリッククラウドについて知る場所がない」ということから、こうしたイベントを企画したという。

基調講演を行なった総務省情報通信政策課長 谷脇康彦氏

 基調講演に登壇した総務省情報通信政策課長 谷脇康彦氏は「スマートクラウド戦略」と題した講演を行ない、総務省として目指しているクラウド戦略を解説した。まず同氏は国内のブロードバンド基盤の拡充が進んでいるにもかかわらず、ICTの利活用や国際競争力が他国に比べて大幅に劣っている現状を指摘。ICTの利活用で上位に来る北欧の各国は、インフラ面では未整備なのにもかかわらず、医療や教育、行政など幅広い分野でのICT活用が総合評価を押し上げていると述べた。そして、日本のICTの現状を谷脇氏は「高速道路があるのに、走る車がない」と表現した。

世界経済フォーラムでのICT競争ランキングでは21位に低迷している

ブロードバンドという高速道路があるのに車が走っていない

 この現状を打開するために検討されているのが、クラウドの利用促進である。谷脇氏は「クラウドを1つのトリガーにして、ICTの利活用を進めていくのは大変重要。ただ、イントラネットを単にクラウドに持ってきても意味がない。あえて『スマート』と名付けたのは、組織や産業の枠を超えて、新しい知識やノウハウを集積する構想として考えているから」と語る。こうした経緯から、総務省では今年「スマート・クラウド研究会」を立ち上げ、さまざまな施策を検討しているという。

 まず谷脇氏は自分たちの足下からということで、総務省をはじめとする行政サービスの「霞ヶ関クラウド」について語った。谷脇氏は42種類の行政サービスを電子サービス化し、コスト削減を進めた韓国を引き合いに出し、「日本は10年間電子政府を推進したが、結局なにも進んでなかった」と振り返った。クラウド導入を業務プロセスの改善、規制改革の徹底と一体的に行なうことで、現状4000億円かかっているコストを、約半分にまで下げられるという見込みを示した。

行政サービスをクラウド化する「霞ヶ関クラウド」構想

コスト削減と効率化を実現した韓国の電子行政

 一方で民間の施策に関しては、今年の頭に調査を行なった。現状、大企業での導入が利用予定まで含めても4割弱、中小企業では2割弱という状況で、サーバーやメール、ポータル、ファイル共有などの用途がほとんど。だが、「クラウドに移行すると、81%の方々が満足している」「米国の利用率はすでに日本の4倍となっている」「米国のクラウド利用は情報系システムでは大きく変わらないが、基幹系システムで比べると日本に比べて2倍も使っている実情がある」といったデータも明らかにした。

クラウド導入に向けた障壁を壊していく施策

 今後、クラウド導入に向けた施策を打っていくにあたっては、いくつかの課題がある。たとえば、今までIT機器の導入に関しての税制面での優遇措置があったが、設備購入を前提としないクラウドの場合は、まったく新しい政策支援が必要になる。もう1つ谷脇氏が指摘したのが、ボーダレスな環境におけるデータ管理についてである。たとえば、EUではEU内で取得した個人情報をEU外に持ち出せないという規制がある。これはグローバル展開する企業においては大きな足かせだが、一方で米国企業はセキュリティ認定をクリアすれば、EU外に持ち出せるというセーフハーバー条項が結ばれているので、情報の持ち出しが条件付きで可能になっている。たとえばデータが漏えいや消失したらどうするのか、といったSLAも含め、グローバルでのデータ管理に関しては、今後日本でもきちんと検討しなければならないと指摘した。

EUのデータ保護指令の概要

ICT活用促進のための制度整備が必要な例

 さらに興味深いのが、クラウドを含めたICT活用における法規制を一括的に改正していくという「ICT利活用促進一括化法(仮称)」の整備だ。現在、ICTの技術的には可能で、新しいビジネスにつながる例があっても法制度面で規制されている例が数多くある。医療分野で見れば、「医師法では対面診療が原則となっているため、遠隔医療は7つの疾病に限定されている」(谷脇氏)といった例がある。また、コンテナ型データセンターの建築に際しては、コンテナであっても建築基準法の対象となる場合があるほか、消防設備が必要になるケースもある。その他、スマートメーターや匿名化された統計情報の利用、戸籍の保存、テレワーク、デジタル教科書など、さまざまな分野でICT活用を妨げる法制度がいくつもある。こうした法制度を一括的に改正し、ICT活用を進めていくというのが、今後の方向性だという。

 最後に谷脇氏は具体的な施策をいくつか披露。利用者視点でのクラウドサービスの標準モデル化を推進する「スマートクラウドコンソーシアム(仮称)」を2010年秋をめどに組成。導入支援、制度面の改正、リテラシの向上、技術開発の支援、標準化の推進とあわせて、行政、医療、教育分野でのクラウド導入を支援。2015年には2009年の約9倍にあたる2.4兆円の市場規模になる(にしていく)見通しを示し、講演を終えた。

 基調講演の後はグーグル、マイクロソフト、日本IBM、あるいはNTTコミュニケーションズとIIJ、ライブドアなど競合同士が呉越同舟で自社のサービスを解説するセッションが行なわれた。前述したグーグル、マイクロソフト、日本IBMの講演者がモデレーターの質問に応えるという総括セッションも用意された。

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