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鳥居一豊の「最新AVプロダクツ一刀両断」 第11回

シャープの4原色液晶テレビを試す

クアトロンは革命画質──AQUOS LX3のすごさを実感

2010年08月03日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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RGBの信号から、RGB+Yの信号を作る

 パネルが四原色といっても、カメラで撮影された元々の信号はRGBの三原色で構成されているので、これを新たに四原色に振り分け直す映像処理が必要になる。

 また、今まで再現できなかった色を見せるというのは諸刃の剣で、やりすぎれば違和感につながる。初期の広色域テレビには、見た目の印象に近い色合いを再現したはずが、演出されすぎて人工的に感じさせる映像のものも少なくなかった。

 逆に最近の薄型テレビでは、あまり派手な色再現を控えている傾向さえある。かといって、普通の色再現をしていても四原色の威力はアピールできない。そのあたりのバランスをどう取ってきたのかは、重要なポイントと言えるだろう。

鮮やかな黄色の花を接写で捉えた映像。中心の赤色から白をへて黄色に変化する花びらの色合いをしっかりと再現。微妙な色までしっかりと再現されている

鮮やかな黄色の花を接写で捉えた映像。中心の赤色から白をへて黄色に変化する花びらの色合いをしっかりと再現。微妙な色までしっかりと再現されている

 それでは本機の映像はどうだろうか? 一言で言うと「鮮やかで濃厚な色」である。「さすが四原色」と唸らされる。

 例えば、黄色い花弁を精密に映した映像などは、黄色の微妙な陰影がはっきりと再現され、実に豊かな再現になっている。若干鮮やかさが強めにも感じるが、違和感を感じるようなことはない。BDソフトの映像などを見ていても、山吹色やレモン色といった黄色の微妙な色の違いがはっきりと出るし、それでいて人物の肌色などに不自然さを感じることもない。

都市部の空を映した映像。微妙な空の色の変化を描き分け、そこに浮かぶ白い雲の表情も実に豊か。なかなか見応えのある再現だ

都市部の空を映した映像。微妙な空の色の変化を描き分け、そこに浮かぶ白い雲の表情も実に豊か。なかなか見応えのある再現だ

 もうひとつ印象的だったのが、空の青さの深み。明るく透き通るような明るい青と深いブルーのコントラストが鮮烈で、白い雲の表情も実に豊かだ。このように、四原色による豊かな色再現ははっきりとわかる。

 見慣れたBDソフトで自宅のテレビと印象と比較してみると、原色の鮮やかさが大きな違いと感じた。それでいて映像全体のトーンが不自然に派手な色彩になってしまうこともない。四原色の威力をしっかりとアピールしながらも、派手すぎない色に抑えている。四原色パネルを実現した技術力もさることながら、こうしてリアルな色彩にまとめ上げたチューニングこそ、本機の最大の魅力と言えるかもしれない。

 もうひとつ感じたのが、精細感の高さだ。ディテールなどを若干くっきりと再現する画質傾向ではあるのだが、それにしては輪郭の不自然な乱れなどもなく、すっきりと鮮明。これは色数が増えることで色によるディテール感の向上が1ランク上の精細感となって現れているのだろう。

1.3倍のドット数を活かす、フルハイプラス

 クアトロンではRGBに加えYのサブピクセルが増えたことによる、独自の高精細化処理が追加されている。通常の液晶テレビのパネルは1920×1080画素×3色=約622万ドットのサブピクセル数だが、四原色になればこれが829万ドットと1.3倍に増える。

【輝度のスムージング技術】まず4つのサブピクセルに割り振られたRGB+Y信号から、輝度情報だけを取り出す(1)。この時点では、各サブピクセルに割り振られた輝度の情報は同じだが(2)、それを補完してスムーズにする(3)。これに色の情報を再度加えて(4)、より滑らかな映像を作る

 この高精細なパネルを、画像表現に応用したのが「フルハイプラス」と呼ばれる新機能だ。フルハイプラス回路は映像信号を解析して細部を補正しながら、この約829万個のサブピクセルそれぞれを独立してコントロール。従来の3原色パネルよりも高精細で鮮明な映像を映し出せるとうたう。また、映像信号を輝度成分と色成分の2つに分け、輝度成分だけにスムージング処理を施す機能も搭載。人間の目は、映像の細かさには限界があるが、明るさの違いには非常に敏感だ。この特性を生かした技術である。

 LX3のディティール感向上には、このフルハイプラスが一役買っている。

 惜しむらくは、暗めの赤や青が沈み気味になる傾向があり、コントラスト感は高いのだが、映画などを見ると、映像がやや重く感じがちなこと。映画のガンマ特性を忠実に再現した「映画」モードなどを選べば、暗部などをしっかり再現できるので、積極的に画質モードを切り換えて使いたいところだ。

 本機は自動画質調整なども備わっており、頻繁に画質調整をしなくても手軽に使えるモデルだが、本機の優れたポテンシャルは自動画質調整では引き出しきれていないと思われる。映画のような高品位なソフトを見るときだけでも、自分でしっかりと調整を追い込んだ画質モードを使うようにした方が、より優れた映像を楽しめるだろう。


期待を裏切らない四原色液晶

 「四原色革命」とまで銘打ったシャープ渾身の新開発ということで、こちらも期待度は大きく、反面、画期的なアプローチに対して懐疑的な気分もあって視聴に望んだのだが、第1号の製品にも関わらず、かなり高い完成度を持つ点には驚かされた。

 映像に不自然さや作り物のようなウソ臭さが少なかったのが、個人的には最も好感が持てた部分。見慣れた映像は自然に、そして、自分の目で見たこともない鳥や昆虫の特異な色彩をより豊かに楽しめるテレビの価値は大きい。

 テレビの色再現を豊かにするアプローチは各社が取り組んでいるが、この四原色技術は、可能性の点においてもかなり優れたものと言っていい。この技術がすべてのカラーテレビを革新するかもしれないし、もしかしたら、技術発表されていた5原色や、黄色の代わりに別の色を追加した四原色テレビが登場するかもしれない。そんな将来さえ予見される。

 とはいえ、今までになかったテレビだけに、違いが違和感に転じる人も少なくないだろう。だから、まずは店頭などで自分の目でじっくりと見て判断してほしい。そして、実際にその映像を楽しんだ人が、このモデルにどんな感想を抱くかがとても気になった。


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