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まつもとあつしの「メディア維新を行く」第9回

見えてきた電子書籍のビジネスモデル

2010年07月30日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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著者との契約にも工夫あり

満員のイベント会場を沸かせていた著者陣。右から堀田純司氏、瀬名秀明氏、北川悦吏子氏、桜坂洋氏、中村祐介氏

 今後は季刊を目指したいとする「AiR」だが、気になるのは著者との契約関係だ。冒頭に挙げた「AiR」正式版の表紙にもあるように、そうそうたる執筆陣が参加している。原稿料や印税はどうなっているのだろうか?

 堀田氏によると、「イラストレーターなどを除き、原則として著者への原稿料は発生させていない」という。海外では一般的な売上印税(原稿料が発生しない代わりに、売上に対する印税率を高めに設定する)を、取り入れた形だ。

 また、著者に対して出版権を残しているのも大きな特徴だ。これまで、出版社に対して原稿を収めるということは、その後の展開を委ねることに等しかった。しかし、「AiR」での契約はあくまでアプリへの作品収録のみに特化しており、著者が紙の書籍や他媒体への作品の掲載・出版を行なうのはまったく自由だという。

 出版社の生き残り策として「360度契約」(出版のみならず、映像化や商品化などのあらゆる権利を包括的に獲得する)を進める流れもあるなかで、「AiR」の契約形態は対照的な動きとして注目される。もちろん原稿料が発生しないことは、先ほど挙げた制作コストの面とあわせ、リスク低減にも繋がっていることはいうまでもない。

 「AiR」では編集や校閲も印税払いとなっている。著者に対しては40%、編集・校閲スタッフに対しては30%という具合だ。逆に言えば、「採算が取れた」というのは、このように、初期コストをできるだけ抑えることで達成できたという(やや意地悪な)見方もできる。しかし、参加した著者・スタッフはイベントを通じて、終始「楽しい」とコメントしていたのが印象的だ。


当面は5000~1万部を目指す動き

 イベントのなかで堀田氏は、「開発版は採算が取れたので、正式版は1万部を目指したい」と発言していた。筆者はそれを聞いて、最近『Twitter社会論』の電子書籍アプリをリリースした津田大介氏もTwitterで以下のようにツィートしていたのをふと思い出したのだった。

ジャーナリスト津田大介氏の7月17日のつぶやき

 京極夏彦氏の新刊『死ねばいいのに』の電子版ダウンロード数が、発売後5日間で1万を超えた事が報じられた。また、村上龍氏は電子書籍版の開発コストが回収できる数を5000部としていたのも記憶に新しい。

 制作方法や、収録コンテンツの調達コストが様々であるので一概にまとめることはできないが、当面はこの5000~1万という数字を目指して各プレイヤーの試行錯誤が続くのではないだろうか。

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