図書館・紙の本はどこへ向かうのか?
ブックフェアには、国立国会図書館も出展していた。
図書館は現在、著作権法の改正を受け、書籍のデジタル化を積極的に進め、また電子書籍についても納本を呼びかけている。
今回注目を集めたGoogleエディションは、“儲かる可能性”を強調しつつも、同時に電子書籍の全文検索が可能という、ある意味、図書館のお株を奪うようなシステムでもある。これに対して図書館はどのような利便性や公共性をユーザーに与えていくことができるのだろうか?
ここで一例を挙げるならば、ボイジャーの萩野氏が指摘したように、電子書籍といえども、絶版になったり、なんらかの事情で市場に出せないケースもあり得る。それでも、図書館に行けば必ず文献が存在しているというのは公共の利益に適っているはずだ。
紙と電子がせめぎあう、過渡期ならではのブックフェア
最後に取り上げたいのが、日本書籍出版協会および日本印刷産業連合会が開催している「造本装幀コンクール」だ。
イベント会場での展示が中心なので、あまり世間一般によく知られているとは言えないが、文字組やカバーデザイン・製本の工夫など、まさに「紙の本」の良さを競う内容となっている。
今年は関連資料など複数のアイテムがボックスに納められた写真集など、紙でなければ味わえない体験を提供する作品が多く受賞をしており、展示には長時間足をとめて本を手にとって眺める来場者が多かったのも印象的だった。
伝統的な紙ならでは良さと、電子書籍の新たな可能性への期待、その両方を感じられるイベントとして、今回のブックフェアは記憶に残るものになりそうだ。
コンテンツの争奪戦が本格化
イベントを通じて、「いかに出版社への負担を少なく、コンテンツをデジタル化するか」という展示が多かったのが印象的だ。
この連載でも繰り返し述べているように、デジタル化の先には、グーグルが提唱するようなクラウド化があり、さらにその先にはソーシャル化が待ち受けている。
そして、ソーシャルグラフに依拠する形でのサービス展開を考えると、できる限り品揃えは多いほうが良い。多様化する趣味嗜好に合う書籍がなければ、ソーシャルグラフの形成は難しいからだ。
そして電子書籍であるならば、本の内容の引用なども含めたコンテンツを核としたソーシャル性が必要となってくる。
そう考えていくと、いま電子書籍の世界ではコンテンツの争奪戦の第一幕が始まっていると捉えて良いだろう。
そのなかにあって、やはり印象的だったのは、コンテンツの提供元である出版社に対して、印刷会社がソリューションに参加することを呼びかけていることだった。
出力するフォーマットはあくまでもマルチかつオープンだが、電子書籍の制作フローというノウハウのなかで囲い込みを図ろうとしている。DNPが推進する新サービス(電子書籍サイトへの提供と、販売実績のレポーティングなど)は、制作だけでなくこれまで取次が行なっていた卸機能までも取り込んでしまおうという動きとしても捉えられないだろうか?
実際、セミナー会場では電子化時代における取次の役割についても、熱い議論が交わされていた。本を巡るバリューチェーンが大きく変動の時期を迎えている。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+iPhoneでGoogle活用術」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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