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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第30回

「ミュージシャンは積極的配信を」 七尾旅人が語る

2010年07月17日 12時00分更新

文● 四本淑三

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即興シーンとの関わりとDIY STARS

七尾 もうひとつ、DIY STARSの開発動機として即興シーンとの関わりも大きかったですね。いま日本の即興シーンはロック畑、ジャズ畑、クラブ畑、老若男女、色んな才能が織り重なりあって、ものすごい豊穣さがある。だけど、そういったライブにたくさん人が来るわけじゃないし、日夜行われている奇跡的な演奏が空気中に消えていくのはもったいない。そのセッションをアップしておけば、流行り廃りのものでもないので、少しずつコンスタントに売れ続ける可能性はあるんですよ。即興シーンに限らず、DIY STARSがあればコアな音楽を続けながらもある程度は音源でも収入が得られるという状況を作れるはずなんですよね。

―― 即興はライブで観ると面白いですよね。少々ハードルが高いけど。

七尾 「百人組手」僕が1日のうちにすごい猛者と即興し続けなきゃならないっていうわけのわからないイベントをやったんですが、即興イベントとしては珍しくリキッドルームが満杯になり1000人くらい集まりました。レイ・ハラカミさんがベース弾いたり、鶴見済さんを引っ張り出してポエトリーリーディングさせたりして、もう異種格闘技ですよ。

百人組手 : 過去に2回開催。今までの組み手はROVO、DJ BAKU、後藤まり子(ミドリ)、豊田道倫、吉田達也、川本真琴など。ウェブ上で一部アーカイブも見られる「百人組手vol.2 七尾旅人 vs ROVO」

鶴見済 : フリーライター。著書に「完全自殺マニュアル」(太田出版 1993年)、「人格改造マニュアル」(太田出版 1996年)などがある

百人組手vol.2 はインターネット上でアーカイヴされている

―― それはむちゃくちゃだ。

七尾 ハラカミさんに「昔はベーシストだったんでしょ、弾いてくださいよ」って拝み倒して弾いてもらったらすごい上手くて、しかも似合ってる。打ち込み機材より似合ってて驚きました。あとラッパーのサイプレス上野くんとはマザコン対決を。

―― マザコン対決!?

七尾 どっちがお母さんが好きかはっきりさせようって。

―― なんですかそれは。

七尾 結局最後は俺が負けて。

―― なんで勝ち負けが分かるんですか!

七尾 1曲ずつ歌った結果、どう考えてもあっちがマザコンだったんです。だめだ、この勝負はいいやって、途中で戦意喪失。

―― そういえばまだDommuneでやったりしないんですか? Dommune自体、何が起きるか分からないプロレスみたいなものですけど。

七尾 即興の番組はやるかも知れないです。宇川さんに話したら乗り気だったから。色んなマッチメイクを考えて、プロレス番組みたいな感じでやりたいですね。熱かった頃の昭和のプロレスみたいに。即興にもっと注目が集まって欲しいんですよね。食わず嫌いの方が多いですが、あれほど面白いものはないです。その場で瞬間的に起こってくることの面白みというのは、人間や音楽が強く前進していくためのヒントの一つじゃないかと思っています。

―― DIY STARS向きのコンテンツでもありますしね。

七尾 毎日全国で演奏して旅していると、いろんな地域の素晴らしい才能に出会います。でも、地方は空洞化、均質化を強いられていて、みんな苦戦しています。大きなショッピングモールが出来た代わりに地元の商店街はシャッターが降り、方言は消えかけています。でも仮にDIY STARSで2000円のアルバムが100万ダウンロードいった場合、20億円近く入ってきます。学校や病院やレコード会社も作れます。地方都市や小国に居ながらにして世界中に影響力を持つ作り手が現れるかもしれない。東京に一極集中したまま沈没しつつある音楽業界が何らかの形で多極化され、地域に温存されてきたさまざまな素晴らしい何かが音楽化されていく機会が増えればいいなと思っています。

―― 東京にいると地方の面白い動きはほとんど分からないし。

七尾 21世紀ならではの新しい手段によって人間と音楽の関係性をもう一度再構築できれば、文化の裾野が豊かになると思うんです。そこを汲んでくれた方が予想外に多くて、レコード屋さんやレーベルの人でも「これでまた新しい、聴いたこともない音楽が聴けるんじゃないか?」って、応援してくれている。みんな本当に音楽が好きなんだと思った。それがすごい嬉しかった。

―― それが「billion voices」を生む契機になるということですね。

七尾 俺にとってはどれも最高の音楽なんです。今すでに目の前に現れてきている、新しい歌の数々や、これから顕在化しようとしている何億もの小さな声が、個人的には物凄く、いとおしい。これからも耳を澄ませていきたいと思っています。


[PR] 「billion voices」ライブが東京と大阪で開催!

8/20(金) 七尾旅人presents 歌の大事故~billion voices 発売&バースデイ記念!~

会場:渋谷O-EAST 開場:18:30 開演:19:30
前売り:3500円 当日:4000円 KIDS割引:2000円 (全てドリンク代別)
チケットぴあ:0570-02-9999 (P:111-285)
LAWSON TICKET:0570-084-003 (L:72126)
7/11(日)より一般発売
お問い合わせ:03-5720-9999

9/26(日) 七尾旅人presents 歌の大事故 ~billion voices 発売記念!~

会場:梅田 Shangri-La 開場:17:00 / 開演:18:00 前売り:3000円 / 当日:3500円 / KIDS割引:2000円 (全てドリンク代別)
チケットぴあ:0570-02-9999 (P:111-432)
LAWSON TICKET: (L:53975)
イープラス http://eplus.jp
7月18日(日)より一般発売
問い合わせ:Shangri-La (tel:06−6343−8601 )



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。

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