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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第30回

「ミュージシャンは積極的配信を」 七尾旅人が語る

2010年07月17日 12時00分更新

文● 四本淑三

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積極的配信と、消極的配信

―― それと並行してDIY STARSもはじめられたわけですが、アーティスト側から配信システムを提案するのも珍しいケースだと思います。

七尾 むしろミュージシャン側から提示していくしかなかったと思います。仮にどのような状況に立たされても、その気になれば自力で売ることが出来るんだよという選択肢は示しておきたかった。そこがタブーになってたじゃないですか。これが革新的なアイディアとは思っていないし、誰かが口火を切ってやればできたことなんです。かなり早い時期に平沢さんが始められていて、その頃はまだ世間が追いつかなかったと思うんですけど、今やインフラが完全にある。

平沢進 : 日本のプロミュージシャンとして最初にMP3の配信を始めたのは1999年

DIYSTARS

―― アイディアは旅人さんですか?

七尾 俺が言いだしっぺで、システム的なことはTUNKが全部作ってくれたんです。いわゆる配信サイトとちがってマージンを一切取らないので、どうやってTUNKに還元していくかなどなど、課題は山積みなんですけど。

TUNK : TUNK.jpを運営する宮沢喬さんのこと。有限会社ビジュアルアンドエコー・ジャパン所属のwebデザイナー。彼自身もnegoというダブバンドにVJ mitchelと参加するなど音楽シーンに関わりを持つ

所属ミュージシャンは七尾旅人、ユザーンらに加え、ワッツーシゾンビ、オオルタイチ、大友良英……といったアヴァン・ポップの面々がそろう

―― でも運用費はかかるわけで、それはペイしないといけませんよね?

七尾 今は各アーティストのウェブサイトに行って、大工さんみたいにシステムを取りつける作業をしています。その施工費に関してはアーティスト負担です。β版を運用していくにあたって、日本アンダーグラウンドの天才たちが続々集まってくれています。CDを超える高音質wav、動画、小説や漫画、ソフトウェア、なんでも同梱でき、いつでもUP可能なDIY STARSの特質を活かして、全く新しい音楽作品が出てくることに期待しています。

―― 「billion voices」はP-VINEからCDとして出るわけですが、DIY STARSでは配信しないんですか?

七尾 「検索少年」を先行して配信していますが、アルバムはCDという形のみです。CDの話はDIY STARSの開発が始まる2年くらい前からの話なので。

検索少年

―― ではCDと配信の切り分けはどう考えますか?

七尾 まずDIY STARSをやることで新たな創作の機会を増やしたいんですね。で、レーベルとはもっと戦略的に手を組んで、お互いにとって意味のある仕事をしたい。今の配信はCDの代替え品のような「消極的な配信」しかない、平沢さんやまつきあゆむ君みたいな一部の例外を除いて(関連記事)。まるで敗走していく軍隊のような売り方ですよ。「CDだけじゃダメだから配信もやろう。着うたもやろう」って。まあ、そういう風にコンテンツが多様化してくこと自体は間違ってないんだけど、「積極的配信」を模索しなければ未来は無いと思います。

―― はじめるにあたって業界的な反発はなかったんですか?

七尾 どんだけ叩かれるんだろうと思って、俺はクロスカウンターを入れる準備をしていたんですけど。実際にはレコード屋の店員さんとかインディレーベルの方、皆さんが応援してくれて、感動の毎日です。DIY STARSを、既存の流通を支えてきた人達とぶつかり合うものとは捉えてないです。これまでは出せなかった作品を出すための、全く新しいシステムなので。現に自分は今レーベルと非常に良い関係だし、DIY STARSを始めてから新しいレコードのアイディアを前よりもたくさん思いつくようになりました。盤でしか出来ない事が鮮明になったからです。いまP-VINEは、DIY STARSの宣伝まで含めてやってくれているんです。

P-VINE(ブルース・インターアクションズ)

―― それは珍しい……というか良いレコード会社ですね。しかし大丈夫なんですか、P-VINEは?

七尾 いや、逆にいうと、P-VINEのように柔軟で変化を恐れないレーベルこそ生き残っていくのではないでしょうか?歴史上の優れたミュージシャンたちのように自らの表現を変化、前進させながら、これからの新しいポップカルチャーを支えていくのだと思います。レコード会社がアーティストを飼う時代は終わったんです。メジャーはまだ分かってないのかもしれませんが。現状について。

―― 将来的に資産を活用するだけの組織になるはずですけど。

七尾 資産の活用の仕方も間違ってますからね。今度どこかから4曲入り500円というベスト盤シリーズが出るそうなんですが、でもそれは「消極的プレス」ということですよ。確かに1曲あたりの値段は配信で買うより安いけど、存在理由がただそれだけしかない。音楽の価値をいろんな意味で下落させるだけの残念な販売方法です。一回立ち止まって考えなおさないとだめですね「積極的プレス」「積極的配信」というものを。

ワンコインCD : ユニバーサルミュージック合同会社が6月23日に発売した「コンパクト・ベスト」シリーズ。4曲入500円。「コンパクト・ベスト〜マイケル・ジャクソン」と、レディー・ガガやNe-Yoなどのコンピ「コンパクト・ベスト~メガ・ヒッツ」の2タイトル(公式サイト

―― 確かにそれはミュージシャン側から提示すべきことなのかも知れません。

七尾 DIY STARSを使って1曲売ってみてびっくりしたのは「初めて配信で買ったんだけど、今年買った盤とか全部含めた中でこれが一番あったかい買い物だったよ!」ってみんな言うわけ。えっ、データなのに? って。それはまるで、まつき君のキャッチコピー状態ですよね。

―― 「mp3でも全然泣ける」ですね。

七尾 まさにそれ。魂込めて、音楽と、その手渡し方について考え直していくと、お客さんをワクワクさせるものはまだまだ幾らでも生み出せるんです。

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