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デジタルパブリッシングフェア2010レポート

日本企業に勝ち目はあるか? 電子書籍戦争、秋には開戦へ

2010年07月09日 12時00分更新

文● 盛田諒/ASCII.jp編集部

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アメリカが本社、ロシアが開発、扱うのは日本の新聞 モグモ

 ここから一風変わったゾーンに踏みこんでいこう。まずは「Mogmo」(モグモ)というサービス。開発しているのは株式会社日本ケーブルテレビジョン。テレビ業界関係者だ。それが証拠か、ブースのどまんなかに置かれているのはテレビだった。

テレビに映し出されたのは「3Dコミック」

 さて、モグモを一言で説明するなら「解析エンジン」だ。たとえば漫画のページを読みこむ。すると、ここがコマで、ここがセリフ、ここがキャラクターで、こういう順番で読んでいって……と、漫画の構成をすべて素の成分まで分解し、自由にいじれるようにする。

 そうしていじったデータを、iPhoneやiPadで読める電子書籍にするしくみだ。画面をタッチしていくだけでコマが移動していくので、指先をぐねぐね動かして、苦労しながら読むこともない。同じしくみで新聞も分析・編集ができるようになっている。

たとえば日本語の漫画を、左読みの欧文モデルに翻訳するときもこんな感じ

タップしていくだけで次から次にページがめくれていくのが快感

やたら構造が複雑で、日本人以外は読みかたが分かりづらい日本の新聞もこのとおり

新聞の場合はクリップする形でデジタル広告に出すことも考えているという

 しかしこんなとてつもない技術、よくもケーブルテレビがつくったものだ。それを聞くと、エンジンはもともとアメリカのもの。さらに開発しているのはロシアのベンチャー企業という。開発陣はまるで日本語を知らない20~30代の若手ぞろいだ。

 このとんでもないアイデア、ヘタな出版社では怒られかねない。そのせいか「いやー、どこ行っても完全にアウェイですね!」と担当者は笑っていた。サービスインはまだ未定だ。今後のアウェイな活躍に期待がかかる。

インターネットの貸し本屋さん レンタ!

 つづいての風変わりなインターネットサービスは「電子貸本Renta!」(レンタ)。運営しているのは株式会社パピレスというIT企業だ。

 レンタは「インターネットの貸し本屋さん」。貸すというのはことばのあやで、要は時間を限定したストリーミングサービス(インターネット上にあるデータを見ること)だ。電子書籍になったマンガや小説を1冊100円から借りられる。

水木しげるさんブームでふたたび話題になっている「貸し本屋」。それがデジタルでよみがえった? もちろんiPadでもストリーミングで読める

 しかしこれだけ電子書籍が売られている中、なぜわざわざ「貸し本」なのか? 実際に読者の声を聞いてみると、1回読んで満足するものは、買うよりも借りた方が得だからという。出版社としてはややさみしい言葉だが、たしかにそういう本はある。

 現在は漫画の単行本などが売れ筋のようだが、最近では「雑誌」貸し出しもはじめた。住まいの雑誌や占い雑誌など、まだ情報誌が中心だが、これが漫画雑誌という形をとりはじめたら、それこそ読書の姿が激変する可能性があるかもしれない。

モンゴルの中心でケータイコミックをつくる 東海データサービス

 最後に紹介するのはかなりのキワモノ。サービスに名前はないが、一口に言えば「ケータイ書籍制作支援サービス」。手がけているのは、東海データサービス株式会社だ。

 主につくっているのはケータイコミック。内容はかなりきわどいもの、要はエロマンガが多い。そのマンガ原稿をケータイ用に加工するのが彼らのビジネス。モノクロの原稿に色を塗り、構成をケータイ用につくりかえ、データでおさめる。

オーサリングするためのしくみを提供する、要は「最適化工場」が東海データサービスだ。データはボイジャー社がつくっている「BOOK」という形式で納品する

もちろん出版社からの色指定もできる。おおざっぱなものから、かなり細かく指定するものまで

 それを、なぜかモンゴルで工場を構えてやっている。理由をたずねると、中国ではアダルトコンテンツが御法度であることがまず1つ。そしてまじめな人が多いことをあげてくれた。翻訳も受け、12ヵ国語に対応しているという。

 iPadには参入しないのか尋ねると、iTunes Storeにはアダルトコンテンツが入らないため、まだ出版社から声がかかっていないという。となると、ケータイでエロマンガを読めるのは日本製のケータイだけになる。未成年がエロ漫画に出会うキッカケと電子書籍の関係という意味では、考えさせられるものがある。



 ――といった形で様々なブースを見てきた。その中でほとんどの企業が「秋からスタート」と口をそろえているのが印象的だ。日本製・海外製を問わず、最新技術が百花繚乱と入りまじった、一大「電子書籍戦争」が起きるのはこの秋といって間違いなさそうだ。

■蛇足 あけぼのさけ本 for iPad待望説

 デジタルパブリッシングフェアの隣で開催していたのが「東京国際ブックフェア」。中でも面白かったのが、編集プロダクションのケイ・ライターズクラブ。彼らが編集している、マルハニチロ食品の広報誌「あけぼのさけ本」が最高なのだ。

 サケにまつわる100個のトリビアを紹介したり、日本画家・高橋由一さんの「鮭図」が解説されていたり、荒俣宏氏による「サケ缶サミット」という謎の対談があったり――まるでBrutusの「サケ缶特集」を買ったような中身の濃さだ。

 ところがこれ、広報誌なのでISBNはない。買えないし、売れない。増刷もない。これが買えないのはもったいない! というわけでどなたか、iPadで出しませんか? 「あけぼのさけ本 for iPad」。売れると思うんだけどなあ。だめですか。はい。

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