技術革新をとらえることの重要性
こうしたなか、これまでの調査の推移のなかで、注目すべき要件がある。
それは、「技術革新」がCEOにとって重要な要素となり、自社に最も影響を与える外部要因のひとつと見ていることが浮き彫りになったからだ。
調査によると、CEOが最も影響を与えると見ているのは「市場の変化」。これが首位となっていることは過去4回の調査でも変化がない。だが、2004年の調査では、84%のCEOが「市場の変化」をあげていたが、2009年には50%へと減少している。
一方で、2004年の調査では、市場の変化、人材・スキル、マクロ経済要因、グローバル化、法規制に次いで6番目の要素でしかなかった「技術革新」は、2006年および2008年の調査では3位に浮上。今回の調査ではさらに上昇し、2位となっているのだ。
さらに、「マクロ経済要因」も、2006年、2008年は6番目に落ち込んでいたが、2010年には再び3位にまで上昇している。
変化の激しさのなかで技術革新が重要な要素であるとの認識がCEOに広がっていること、それが企業の成長にとって重要であること、そして、マクロ経済を捉えることが、経営にとって重視すべき要素であることが示されたものといえよう。
複雑さを武器とする経営に求められること
では、CEOが、複雑さを武器とする経営を行うためにはなにが必要なのか。
IBMでは、調査結果から「創造性を新たなリーダーシップの要件とする」、「顧客との新たな関係を構築する」、「巧みなオペレーションを確立する」という3点をあげた。
「創造性を新たなリーダーシップの要件とする」としては、あいまいさを受け入れる、レガシーとなったビジネスモデルを覆すリスクをとる、成果が実証された従来のマネジメントスタイルの一歩先を行くといった点を指摘。市場の一歩先を行くために、自社組織の変革を促進し、様々なコミュニケーションスタイルとツールを利用することで、業界モデルや自社の企業モデル、収益モデルの現状を打破することが必要だとした。Twitterの利用なども新たなコミュニケーションスタイルとして重視すべきものと位置づけた。
「顧客との新たな関係を構築する」としては、何よりも顧客に敬意を表する、双方向コミュニケーションを駆使し、常に顧客と同じ視点・感覚を持つ、激増する情報から利益を得ることとし、顧客に近づくこと、顧客との協業と情報共有によって顧客ニーズを深く理解すること、さらに、情報の洪水のなかからビジネス価値を探索することが、顧客に対して前例がないサービス提供につながるとした。
また、「巧みなオペレーションを確立する」では、可能な限りシンプルであることを追求する、社内に浸透した複雑性を管理する、スピード感と柔軟性を重視する意識を醸成する、グローカル(グローバルとローカルを組み合わせた造語)を目指すことをあげ、複雑性を巧みに管理するためにはオペレーションと商品を単純化すること、繰り返し戦略を改定し、迅速な意思決定を行い、素早く行動すること、グローバルでの統合と変動費の割合を増やすこと、敏捷性を高めるために協業および提携を進めることを示した。
日本IBMでは、「ここまで複雑な世界は過去にはなかった。また、これからも複雑さが増すと見ているCEOが多い。それならば、複雑さに対応していくのではなく、複雑さを武器にした経営を行うことが必要。これからの成長企業の要件は、複雑さを武器にすることになる」とまとめている。
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