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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第7回

電子書籍への大転換は「ソーシャルな読書体験」から生まれる

2010年06月25日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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ソーシャルな領域ならば国内勢にも勝機が残されている

 この連載で電子書籍を取り上げる際、その問題意識の出発点は、「プラットフォームを海外勢が握ってしまっている」という事実だった。

 それはこれからも揺らがないだろう。デバイスの革新性でAppleの先を行くのは困難だし、いまからAmazon並の流通プラットフォームを確立するのは現実的ではない。

 けれども、ソーシャルな領域ではどうだろうか?

 たとえば、SNSの分野ではグローバルスタンダードのFacebookに対して、mixiが善戦している。もちろん、まだまだFacebookに比べ「閉じた仕様」に見えるmixiに不満を持つユーザーも増えているが、文化・習慣に強く依存するソーシャルサービスが、容易には浸食できないひとつの例として挙げられるだろう。

 また、メタデータの集積による「フォークソノミー」をうまく形成した例がニコニコ動画だ。独特のコミュニティを形成し、YouTubeに対する一種のカウンターとなっていることは否定できない。

 Googleはどうだろうか? いろいろなところで指摘されているが、Googleはソーシャルサービスで成功例をあまり作れていない。ほかのGoogleのサービス同様、Googleブックサーチ用のAPIが用意され、それを利用したサードパーティ製の人気サービスが生まれてくる可能性は少なくないだろう。

AppStoreやAmazonのレビューを見る限り、賞賛や非難に偏りがちで十分に信頼のおける仕組みとはいえない。ソーシャル化にはまだまだ改善の余地がある

 日本語という言葉の壁・文化の違いに閉じこもってしまってはいけない(それは海外市場展開への可能性の芽を摘む)が、このギャップを活用して「ソーシャルな読み方」を提供するサービスが登場することに筆者は期待をしている。

 繰り返しになるが、デバイスの機能やインタラクティブ性は、電子「書籍」における競争の本質ではない。デバイスについては、すでに勝負がつきつつある。インタラクティブ性については、確かに楽しいし目新しさもあるが、「(紙面に比べて増加する)制作コストをいかに回収するのか」という問いに答えられていない。

 海外製のプラットフォームに一部依存しつつも、知の集積体ともいえる「本」を、「電子書籍」化を通じて、いかにソーシャルなものへ昇華できるか――。各プレイヤーの次の段階に向けた選択と技術力が、派手な電子書籍ブームの一方で静かに問われている。


著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+iPhoneでGoogle活用術」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto


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