「ソーシャル」であるためには何が必要なのか?
ここまで、電子書籍とクラウド化、その先にあるソーシャル化について見てきた。
現時点では「ソーシャルな本の読み方」を提供しているサービスはまだない。しかし、いまどんなフォーマットやプラットフォームを選択あるいは構築するかによって、第二段階以降での勝敗が大きく分かれる。
では、著者・出版社をはじめとする提供側がソーシャル化に備えるには具体的にどうすれば良いのだろうか?
ここで、連載第五回で提示した「電子書籍の三原則」の前提となるオープン性を備えているかどうかが重要になってくる。
電子書籍の三原則
1.所有され同期されること
2.検索・引用可能であること
3.ソーシャルな読み方ができること
なぜなら、コンテンツがオープンであれば、そこに検索可能なメタデータ(この場合はタグやコメントなど)を付与できるからだ。
コンテンツにメタデータが付与されることで、検索対象として扱えるだけでなく、関連するコンテンツもより適切にリコメンドしやすくなる。
それらの仕組みが整うと、利用者自身がタグやコメントなどのメタ情報を入力し続けることで、あらゆる人たちがその本によりアクセスしやすくなり、コンテンツの利用が促進されていく(これを「フォークソノミー」の形成ともいう)。ひいてはプラットフォームの収益性が向上していく。
先ほど挙げたソーシャルな読書体験のイメージで、同僚が書籍コンテンツに対してコメントを入力しているシーンを紹介した。また、読後の評価も、見ず知らずの人のものではなく、知人・友人といったソーシャルグラフのなかのものを参考にすることで、結果、購入につながる確率(コンバージョン)も上がっていくことになる。
いま、もしクローズドなフォーマットを選択してしまうと、メタデータ付与といった次の展開に備えられなくなる。もし再度フォーマットを変換するとなると、多大なコストや機会損失を余儀なくされるだろう。
「属性情報」と「評価情報」――2つのメタデータ
メタデータによって形成されるフォークソノミーについて解説した書籍『ウェブは菩薩である』のなかで著者の深見嘉明氏は、メタデータを「属性情報」と「評価情報」に分類している。属性情報はコンテンツの内容に関する情報で、本の場合はタイトルや著者名・ISBNなどがそれにあたる。評価情報はコンテンツのレビューや評価についての情報で、サービス提供者ではなく利用者が断続的に追記・更新していくのが特徴だ。
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