「究極型」Googleブックサーチはなぜ受け入れられなかった?
本を読むことが好きな人、あるいは筆者のように論文や評論などで類書の参照、引用を頻繁に行なう職業に就いている人であれば、電子書籍がクラウド化された世界は理想的であることは理解いただけるはずだ。
現在の電子書籍の多くは、アプリ型を採用している。DRM(デジタル著作権保護)が掛かっている状態のファイルをローカルにダウンロードする形だ。ボイジャーの萩野氏も指摘するように、各社が独自のビューワやDRMを採用している現状では、所定のビューワでしか本を読むことはできず、フォーマットの異なる書籍に串刺しで検索をかけるといったこともできない。
その点、Googleブックサーチは使い勝手に関していま考えうる究極の姿を示したものだと言える。タイトルや著者名だけでなく、本文までもが検索対象となっているため、ウェブ検索と同じ要領で目的のコンテンツを探し出すことができるのだ。
だが、(一般ユーザーはともかくとして)Googleブックサーチは歓迎ではなく困惑をもって迎えられた。出版社だけでなく、著者からも非難の声が上がったのは記憶に新しいところだ。
Googleブックサーチへの反発の主な理由は以下の3つに集約される。
1.グーグルが米国図書館からの提供を受けてデジタル化を進めていた書籍に、日本の作品が数多く含まれていたが、その扱いについて日本の権利者に問い合わせの機会が与えられたのがつい最近であったこと
2.明確な反対の意思を表明しなければ、原則として公開されるポリシーとなっていたこと(これは書籍の出版権が著者に帰属するのか、それとも出版社にあるのか曖昧だった日本の慣習にも一石を投じる結果となった)
3.仮にGoogleブックサーチへの書籍公開に応じた場合、分配率は明示されているものの、収益性が明確ではなかったこと
結局、Googleブックサーチに収録される書物について日本のものは当面対象外となり、この件についての混乱は一段落したかに見える。
しかし、いまこの段階の電子書籍ブームは、 “紙からデジタル”へというパッケージの転換が進んでいるにすぎない。もちろん、取次や印刷業界に与えるインパクトは甚大なものがあるが、本当の変化はデジタル化が進んだあとに控えている「クラウド化」「ソーシャル化」といった第二幕に訪れると言えるだろう。
インターネットの利便性に慣れ親しんだ読者の側もそれを求めていくのは自然な流れだ。グーグルも競合サービスやAndroidタブレットの普及状況も睨みながら、再び日本の書籍市場に対して参入を促してくるはずだ。
ビジネスとして電子書籍に取り組む際はロードマップに「クラウド化」「ソーシャル対応」をマイルストーンとして置いておくことは不可避だと言えるだろう。
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