Kindleで“ソーシャルな読書”をひと足先に体験する
これはクラウドかつソーシャルに対応した電子書籍のイメージだが、実はKindleがかなりこれに近い形に進化しつつある。
直近のファームウェアアップデートで、感想をTwitterなどにツィートしたり、ほかの読者とアンダーライン(ハイライト)の共有が可能になったのだ(参考記事:マガジン航「キンドルで読書体験の共有が可能に」)。
これによって、自分と同じ箇所に何人がアンダーラインを引いたのか、アンダーラインが引かれた回数の多いフレーズはどこかなど、他者の読書体験を自分の本(Kindle)に取り込めるようになった。
ところで、これまで二度の電子書籍ブームと現在の大きな相違点は、すでに紙の本に対しても「ソーシャルな読み方」がポピュラーになっている点だ。
かつて書籍の宣伝は新聞紙面の書籍広告欄が定番だった。だが昨今は、ネットからの情報で本の存在を知ることも多い。
読者の関心領域・趣味嗜好が多様化した現在、「自分が読みたい一冊」に出会うことはますます難しくなっている。発行点数の増加もそれに拍車をかけているというのは、連載第2回の文化通信 星野氏へのインタビューにもあったとおりだ。
一方、ソーシャルメディアでは、意識する・しないに関わらず、本との出会いが用意されている。
たとえばmixiのレビュー機能では、自分のソーシャルグラフ(グーグルのBrad Fitzpatrick氏が提唱したヒトとヒトの関係を点や線で表現した概念)内で友人が読んで感銘を受けている一冊を知ることができる。また、その本にレビューを寄せているミクシィユーザーを知ることも可能だ。
さらに、優れた書評ブログでは、お気に入りの読み手が率先してお勧めの一冊を解説してくれる。
そういった書評をきっかけにAmazonで目当ての本を購入すると、他ユーザーの膨大な購入履歴から類書が表示される。
これらはすべて紙の本ですでに当たり前となっている。ほかのコンテンツ(たとえば家電やゲームなど)と比べて、より深く個人の嗜好・関心・思想と紐付いている「本」は、ソーシャルメディアとそもそも相性が良いのだ。
パッケージ化され、デジタルとは切り離された紙の状態ですら、このような按配なのだ。ここに電子書籍が浸透していけばどうなるだろうか? 本のタイトルだけでなく中身(コンテンツ)が、本の出会いや、ソーシャルグラフを拡げるきっかけになるはずだ。
BLOGの個別のエントリーに、はてなブックマークなどのソーシャルブックマークが付けられ、そこからこの話題に関心が高い人同士のディスカッションが始まることも珍しくない。電子書籍では例えば、「この作品のこの章が好き」という人達がコミュニティを形成する、ということだってあり得るかも知れない。
ある面では、供給サイドである出版社にも商機が拡がる。前回の萩野氏のインタビューにあったように、多くの本が絶版になっている現状があるが、デジタル化によって、在庫・流通コストはほとんどかからない(やがて絶版という概念が将来的には過去のものになるだろう)。
第一・第二の波では、同時期に上記のようなサービスが成立する前提が整っていなかった。それが、第三の波とされる現在の電子書籍ブームとの決定的な違いと言えるはずだ。
クラウド上にストレージされた新旧様々な本が、ソーシャルグラフ(ヒトとヒトとのつながり)の中での「言及(レビューなどの評価)」を通じて、注目を集め、埋もれていた作品にも再び光が当たる。そんな未来像を、筆者は一人の本読みとして夢見ている。
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