身近なAVアンプの入門機
3D BRAVIAと組み合わせたい! ソニー「STR-DH710」
2010年06月23日 12時00分更新
上級モデルの美点を受け継ぐ、正統派のサウンドも魅力
では、肝心の音の実力について紹介していこう。まずは自動音場補正機能の3つの補正タイプから。「FULL.FLAT」はもっとも無難な設定で、クセのない自然な音場感が得られる。特に低音域の抜けがよく、環境によってはもこもこと不明瞭になりがちな低音域の明瞭度が上がり、最低域の伸びや解像度感も向上したように感じる。これは、スピーカー間の音色を揃えるだけでなく、部屋の形状などによる定在波の低減をうまく行なっているためだ。
「ENGINEER」では、FULL.FLATに比べてわずかに低音の量感が増し、空間もより広くなる。開発者の説明によれば、これはアンプの最終的な音質チューニングを行なった部屋の特性そのままで、20畳ほどの広さで(音場補正などではなく物理的に調整された)適度な定在波を持った環境とのこと(AVマニアの間では有名な「かないまるルーム」である)。音質チェックのためのスタジオ的な音場ではあるが、きちんと音楽を楽しめる空間になっている。
「FRONT.REF」は、特定(お気に入り)のステレオスピーカーの音色を重視し、それ以外のスピーカーの音色だけを補正するもの。ステレオスピーカーにイコライザー補正が加わらないため、(聴感上の影響はほとんどないが)音質的な劣化が少ないことも期待できる。これまでステレオスピーカーでオーディオを楽しんできた人がそのスピーカーを使ってサラウンドシステムに発展させた場合に役立つモードだ。
個人的には、空間の広がりに余裕のあるENGINEERが好ましかったが、今回の試聴は細かな音の違いなどをわかりやすかったFULL.FLATで行なっている。
その音は、解像度感の高い緻密さのある音場で、空間の広がりや前後左右に配置された音の出方がとても明瞭だ。特に驚かされるのは、左右のスピーカーの外側の音、前後のスピーカーの間から出てくる音などがきちんと再現されること。そのため、サラウンド効果がとてもわかりやすく、自由自在に飛び交う音にワクワクさせられる。こうした映画の製作者が意図したサラウンド設計を忠実に再現する正確さは、同社の上位モデルにも通じるものがある。
そのぶん、爆発音のようなドカンと出てきて欲しい音がややひ弱で、力感という点では少々物足りなく感じてしまう。それぞれの音には実体感があるのだが、ややあっさりとした表情になりがちなのが惜しいと感じた。音色的な力感ではなく、音の瞬発力や勢いがやや不足しているように思う。こう感じてしまうのは、筆者が上位機である「TA-DA5500ES」の音を、産み落とされた場所である「かないまるルーム」で聴いているからこそ感じる不満(AVライターの役得)。
正直なところ、同価格帯のAVアンプとしては出色の出来で、前述の不満は出来が良すぎるがゆえの欲張りな感想と言っていい。こうした強欲を満たせるのは、実売で20万円を超えるミドルクラス以上のものだけだ。
独自のサラウンドモードである「シネマスタジオEX」は事実上、DVDのサラウンド音声用の音場モードである。ソニースタジオの代表的なスタジオの音場を測定し、室内での音場再現に反映するもので、映画館らしい豊かな音場で楽しめる。
個々の音の鮮明さが少々ぼけてしまい、美点である精密な音場が大味になってしまうきらいはあるが、映画館らしい響きの豊かな音は気持ちがいい。DVDのサラウンド音声はBDのHDオーディオによるサラウンドと比べるとサラウンド空間が薄っぺらく感じがちなので、それをフォローするにも良いと感じた。
なお、現行の最上位モデルではより高精度にベースとなるスタジオの音場の測定や解析をやり直した「シネマスタジオHD」が導入されており、こちらはHDオーディオの解像度の高い音にふさわしいリアルで豊かな音場が得られる。今後は入門クラスのモデルにもこちらの導入を期待したい。
単品コンポのAVアンプとしても最低価格になるモデルだけに、快適な使い勝手こそBRAVIAとの組み合わせ限定となってはいるが、音作りはかなり真面目に練り込まれたモデルだ。使い勝手を気にしなければ、他社製薄型テレビユーザーも選べるが、こんなAVアンプがオプションとして用意されているBRAVIAユーザーはとても幸せだと思う。
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