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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第119回

技術ナショナリズムが「ガラパゴス化」をもたらす

2010年06月23日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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総務省が外資を排除して強要する「日の丸技術」

 さらに混乱しているのが、1~3チャンネルの「VHF-Low」帯だ。総務省は「ラジオと地域情報メディアの今後に関する研究会」を開催して、この帯域の用途を検討してきた。当初はアナログ放送の終了にともなって電波利権を失うラジオ局に配慮して「デジタルラジオ放送」をやろうとしたが、今どき音声だけならインターネットでいくらでも放送でき、特殊なラジオで受信する人はいないため、この話は消えた。

 このため総務省の内藤副大臣が調整に乗り出し、「地域情報メディア」として利用するサービスを検討することになったが、免許を辞退する業者が続出して話がまとまらず、ついに報告書が出せないままパブリックコメントを募集する異例の展開になった。

 このように電波利用が混乱する原因は、技術が急速に進歩して多様化しているのに、総務省が技術もビジネスモデルも決め、業者を一本化しようとしているからだ。昔の地上波テレビのように技術が1つしかなかった時代には、役所(あるいは政治家)が決めても大きな害はなかったが、今は技術進歩が速く多様化しているので、役所が技術を選ぶのは間違いのもとだ。放送衛星や通信衛星のように役所が無理やり一本化した会社は、数十社が出資して経営方針が迷走し、経営が破綻するケースも多い。ましてビジネスが成り立つかどうか役所にわかるはずもない。

 こういうとき先進国では、周波数オークションを行なうのが普通だ。「研究会」も一本化も必要なく、60社が価格で競争し、最高価格をつけた企業が落札すればいいのだ。書類による「美人投票」なら、どこの社も「当社がもっとも有効に電波を使う」と主張するだろうが、オークションで実際に金を払うとなると嘘はつけない。オークションは「本当のことを言わせるメカニズム」なのだ。技術も特定せず、帯域免許で周波数だけを与え、企業が営業開始の時点で最適の技術を選べばよい。もちろん失敗する企業も出てくるだろうが、経営が破綻した場合は免許を転売する第二市場を設ければよい。

 今回もVHF帯について、民主党の議員から「オークションで決めてはどうか」という意見があったが総務省が拒否した。その原因は、もともとこの帯域は「日の丸技術」に割り当てることを総務省が決めているためだ。関係者によれば「ISDB-Tmmはクアルコムつぶしのために電波部がフジとドコモにやらせたもの。ドコモは2.5GHz帯をあきらめる代わりにVHF帯をもらった」という。このように外資をつぶすために総務省が「日の丸連合」をつくらせる技術ナショナリズムが、結果的には日本の無線技術の「ガラパゴス化」をもたらし、通信業界を壊滅させたことに、総務省が気づくのはいつのことだろうか。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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