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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第6回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【完結編】

「はやぶさ」の夢は続く、開発者が考えるその先にあるもの

2010年06月17日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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次の探査、次の人材へ

川口 「はやぶさ」の次もありますし、もっとたくさん打ち上げられればいいのに、新しいミッションを続けていければいいのに、とも思ってます。まあでも歳がねえ。あと8年くらいしか僕はいられない。

 だから、世代を交代していかないと。自分のところでクローズする、8年とかで閉じるような話はもう無理なんですよね。もう十数年続けば自分のところでクローズできるかもしれないけど、開発するだけでも数年かかるし、飛んでまた数年かかるわけだし。

 だから、伝えていかざるを得ないでしょ。やらなきゃいけないことですよね。リセットされて十数年前に戻ってしまうのではだめ。立ち上がった上に足していかないと。


矢野 (2005年、第一回タッチダウンでスーパーバイザーを務め、探査機上昇のコマンドを決定したとき)振り返って考えると、僕が間違った答えを出していたら、川口先生がちゃんと修正したんだと思います。

サンプラーホーン開発担当 矢野創准教授

 川口先生というシステム工学のプロ中のプロと、衛星を知り尽くしたメーカーの方が同じ答えを出しているわけですから。あのときは、たまたま僕も同じ答えだった。

 でも、僕にそれを考えさせるチャンスをくれた。あのピンチのなかでも川口先生は人を育てようとしていた。リーダーとして凄い人だと思います。

 「はやぶさ」は工学試験衛星です。それはつまり次を想定しているわけですよね。「はやぶさ」の技術を使って、次を作っていかなければいけない。それが「はやぶさ」の使命なんです。

 僕は科学者ですが、科学者にもそれを体験させるということを、あの場でも川口先生は思っていたのかもしれない。「はやぶさ」後継機のプロジェクトが始まったとしたら、常に僕はあのときの体験を心において運用するのだと思います。そういう意味ではすごい財産をもらいましたね。


「真田さん」と呼ばれて

イラストからストーリー物の動画まで――「はやぶさ」ほどファンアートに恵まれた国産宇宙機はないだろう。幾多のトラブルを機転と技術力で乗り切った姿に、ネットではプロジェクトメンバーを「真田技師長」にたとえて称えた

 「はやぶさ」といえばネット人気、応援コンテンツの多さも話題だ。「はやぶさ」自身、「Hayabusa_jaxa」の名前でTwitterアカウントを持ち、宇宙機一人称ツイートという文化(?)があることを教えてくれるなど、「はやぶさ」とネットの親和性は高い。プロジェクトメンバーは、こうした人気をどう見ていたのだろうか。また、公式非公式を問わず、応援の盛り上がりは何につながっていくのだろうか。


吉川 ある意味非常に予想外。でも嬉しいですね。できるだけみなさんに親しんでもらえるよう、我々も努力はしていたつもりですが、ここまでとは。動画でいくつか非常に面白いのがありました。「宇宙戦艦ヤマト」にたとえたのとか、面白くうまく作ってくれて。多少の間違いはあるにせよ。

 ただ、リチウムイオン電池に関するシーンの部分では、実際の担当者が「なんでこのキャラクターがバッテリ担当なんだよ~」と嘆いていました(注:宇宙戦艦ヤマトの登場人物、佐渡酒造が登場する)。……でも案外似てると思うんですよ、私から見ると。こんなこと言うと怒られてしまいますけどね(笑)。


安部 FLASHムービーとか沢山出てきて、あれはすごくよかったと思いました。さだまさしの「案山子」が流れるのとか。あと、「はやぶさ」を擬人化して、女の子が豆腐を抱えているイラスト、ボロボロになりながら大事なイトカワのサンプルを持って帰ってこよう、という(おつかいできた)。あれは非常に好きですね。

 最近だと宇宙戦艦ヤマトのパロディ「こんなこともあろうかと」っていうのもありましたよね。ウチの家族にも見せたくらいです。

ネット人気は留まるところを知らず、青島文化教材社からは1/32「はやぶさ」プラモデル化に続き、擬人化フィギュア「はやぶさたん」の発売まで決定した


イオンエンジン開発担当 國中均教授(提供:JAXA)

國中 私は、イオンエンジンという技術を開発していく立場と、「はやぶさ」プロジェクトをステアして、ミッションを成功の方向に導くという立場です。

 たとえばエンジンが壊れそうになったら、それまでの知見や技術を駆使して直すわけで、そうした活動をまとめて「真田技師長」とおっしゃっていただけるのであれば、非常にありがたいことだとは思います。

 とはいっても、探査機というのはいろんな部品・技術で構成されていて、そもそもエンジンが動くためには正しく姿勢が制御されていないといけない。電力も正しく供給されないと動かない。エンジンは最末端の部分、最後の出番ですからね。

 注目はされやすいですが、それ以外の部分が動くからこそイオンエンジンも動ける。さまざまな技術、技術者によって支えられている。特定の誰かが技師長になっているわけではないです。いろんな人の活動を合成した人間像だということですよね。


マルチバンド分光カメラ開発担当 齋藤潤氏

齋藤 一般の方にこれほど受けたミッションというのは珍しいな、という気持ちは持っていますね。

 2005年の「はやぶさ Live blog」で栄養ドリンクのビンが増えていくくだり、あれは泊まり込みで大変だからと、2箱買ってきたんですよ。で、箱を台にしてその上にキーボードを置いてブログを書いていたんです。

 順次飲んで作業していたのですが、「はやぶさ」からの写真は定期的にしか降りてこないから、間が持たないんですよね。

 それで寺薗君(元カメラ科学観測及び広報担当 寺薗淳也氏)とふたりで「じゃあブログ書いてる風景でも撮りましょうか」「何か面白いことしないとね」「ビン並べようか。どうせ増えていくし」って。それでだんだん数が増えていって、最後は10本並んでいるわけです。

 アポロの時代だったら、あれは多分、灰皿にどんどん煙草の吸殻が積み上がっていくさまだったと思いますけど、今の運用室はもう禁煙ですからね。

2005年、タッチダウンの模様を速報したJAXAのブログでは、机の上に栄養ドリンクの空きビンが増えていく光景が話題を呼んだ。その反響を受けてか、JAXA相模原キャンパスに展示されている「はやぶさ」のペーパークラフトは、栄養ドリンクのビンで支えられている


矢野 運用している僕らは、実はあの栄養ドリンクの空きビンとか知らなかったんですよ。タッチダウンのときは限られた人数でずーっと付きっきりなので。

 そして本来、運用室と管制室では飲食禁止なんです。ああいったことから一般の方が興味を持ってくれたのならありがたいことですね。ただ、あれが運用の普段の姿だというわけではないですよ?


國中 応援していただけることは大変ありがたくて、我々も勇気づけられます。応えられるようがんばれますしね。他方で、オーストラリアでカプセル回収の作業をする我々はフォーリナー、ストレンジャーという立場になります。日本にはないしきたり、習慣、法律があるので、我々が活動するには、それなりの調整をするわけです。

 ですから一般の方が見学で立ち入り禁止区域に行かれたりすると、いろいろ問題が起きるのでは、ということをかなり心配しています。何かの間違いが起きてしまったら、大変ネガティブなことになるので。宇宙科学技術のファンでいていただけることは、我々も非常に勇気づけられるのですが。


藤原 まず正しい情報がきちんと伝わって、正しく評価されていくことが必要ですよね。我々もそういう意味では責任を持って対応したいと思います。しかし一方で、簡単にアクセスできるネット上で、支持していただける層が広がるということは、宇宙科学を進めるほうにとっても、非常に心強いという気がします。

前サイエンスマネージャ 藤原顕教授

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