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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第6回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【完結編】

「はやぶさ」の夢は続く、開発者が考えるその先にあるもの

2010年06月17日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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「はやぶさ」帰還までを描く「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」は、全天周映像ということもあり、各地のプラネタリウム施設で上映された。6月からつくばエキスポセンターでの再上映が決定している

物語になった探査機ミッション

 ネットはもちろんだが、「はやぶさ」の場合、全天周映像「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」といった映像作品が各地の科学館で公開されるといった盛り上がりも見せた。

吉川 いつも宇宙研では、ミッション紹介ビデオを作るんですけど、リラックスして見られるのにしましょうと私が提案したところ「祈り」というコンテンツが誕生しました。それがまた発展しまして、大阪市立科学館などで上映されている「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」につながっていったわけです。

 2作品を比べると、「祈り」のほうではカプセルについてのみ言及していて、本体は何も触れてないんですよ。

 ところが、「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」では本体も突入してばらばらになってしまうシーンをぜひ入れたいと。どうしようかと考えたのですが、川口先生は「いいだろう」ということなので、こちらは最後にばらばらになるシーンが入ってます。これだけ物語的になった探査機ミッションというのもなかなかないですよね。


安部 ミッションの成果を1か0かで見られてしまうのは非常に辛いものがあります。「はやぶさ」の場合、目的はサンプルリターンだけはでなく、工学的な技術を実証するということがあるわけですから、(評価は)1か0ではなくて、ある部分はもう成果を上げているわけです。

 実証と同時に、問題は起きたけどそれを克服して進み、またひとつ進み、とやってきたことを評価してもらっているので非常にありがたいです。

「はやぶさ」のイトカワへの旅は、若手メンバー、そしてまだ見ぬ研究者に向けた人材育成の場でもあった(提供:JAXA)


矢野 一般公開日に小さいお子さんが寄せてくれるメッセージもすごくうれしいですね。

 僕も小さいころ、スペースシャトルを見て、人間が普通に宇宙に行ける時代になったんだとか、新聞の1面にボイジャーが撮った木星や土星のカラー写真が載っていて、人間の作ったものが太陽系を旅して新しい知見を増やしていくって凄いなあと思っていました。

 太陽系は惑星だけじゃなくもっとたくさんの仲間がいて、その小さい天体こそが、地球の命の源を知る上で重要なんだと気づいてくれたら。ちゃんと「はやぶさ」をフォローしてくれている子は、もうそういうのがわかるんですよ。小惑星や彗星の価値を、小学生でも「はやぶさ」を通じて知っている。

 あと10年くらいして、その子たちが『自分は小学生のときに「はやぶさ」を見てこの道に進みました』と言ってくれたら、「はやぶさ」の価値は十分にあったと思います。林業みたいに、次世代、次々世代につないでいくことを意識してやっています。


川口 このプロジェクトが目指したものは、もちろん技術実証もありますが、人材育成なんですよ。若い方に刺激を与えること。子どもさんであれ親御さんであれ、関心を持ってもらえれば。この後、宇宙を目指さなくても、どんなジャンルでも新しい知的な挑戦を目指すようになれば、なによりだと思うんですよね。


的川 「はやぶさ」を見た若い人たちが、特に宇宙の分野でなくてもいいですけど、また違った分野でもそういう世界を求めて、人と人とが力を寄せ合って、大きな仕事を一緒にやっていく、その素晴らしさを感じ取っていただけたらと。


「はやぶさ」の飛ぶ先、そのまた向こう

 プロジェクト開始から15年、その前段階である研究からすれば20年以上「はやぶさ」にかかわってきた、プロジェクトマネージャの川口氏をはじめとするメンバーたち。「はやぶさ」ミッションのその先に、何を見ているのだろうか。


「子どもたちがはやぶさの挑戦を見て、宇宙でなくても新しい知的な挑戦を目指すようになれば」(川口氏)

川口 「はやぶさ」はあんな小さな機械ですけど、もっと冗長性を入れてね、ひとつ壊れても次のバックアップがあるようにしていくと、大きくなって宇宙船になったら人間も乗れる。そうなれば今までとは違う運用方法があるわけですよ。

 私よく言ってるのはラグランジュポイント、地球の引力圏と惑星間との境に大きな港を作るわけです。そこから出て行って、また戻ってきて、燃料のキセノンガスなりなんなりを入れて、また飛び出していくという運用は、もうできるんですよ。

 地上から打ち上げると、地球の重力はすごく大きいから、とんでもなく大きな推力に耐える頑丈な機体でなければならない。だけどラグランジュポイントにある港から出入りする宇宙船というのは、箱をつないだような宇宙船でいいわけで、ロケットとはまったく違う宇宙船が運航されるはずですよね。

 もうそういう時代は来てるんだけど、なかなかそこまで話が大きくならない。もう数十年もかからないと思いますけどね。そういう時代になれば、太陽系のなかで資源を求めて歩くといったことも現実的ですよね。小惑星に人が長期間滞在して戻ってくるとか。


吉川 イトカワのようなS型、「はやぶさ2」の目的地であるC型小惑星のほかに、M型小惑星というのがありまして、こういうところに行ってみるのも面白い、人類の宇宙活動に役に立つかもしれないんですよ。M型というのは、金属で出来ていると言われているんです。

 惑星に成長してきて、いったん溶けて中心部に鉄のコアができ、そこに別の天体が衝突してばらばらになったものですから、表面に鉄のコアが現われている。地球の鉄のコアには、人は絶対たどり着けませんけど、そういった天体を調べれば、惑星の中心がどうなっているかわかる。資源として使える可能性だってあります。


JAXA名誉教授 的川泰宣氏(提供:JAXA)

的川 一般の人たちに比べて、政治家、お役人さんはどうもそれほど宇宙に関心がないというか……日本の将来にとって、宇宙が非常に重要な分野だと思っている、というようには私には感じられないですねえ。残念ながら。

 アメリカにしろ中国にしろ、宇宙先進国の元首というのは、必ず宇宙開発について演説で触れますけど、日本の総理大臣の演説には出てこない。

 「はやぶさ」1機が120億くらいですけど、120億であのミッションを作ったというのは、世界から見れば驚異で、アメリカで同じものを作れば500億はかかる。

 お金がないなかであれだけのものを作っているというのは、非常に尊いわけで、イトカワに着陸・離陸した時点で大きな成果を上げたという判断はすでに下っていると思いますね。


川口 宇宙開発が始ってまだ50年くらいしか経っていません。(ひとつのプロジェクトに)何十年もかかるというのは錯覚です。宇宙開発そのものの目的、ゴールにポリシーがないからですよ。ポリシー、国として宇宙開発に何を期待するかということがはっきりしていれば、それでいいわけですよ。

 即物的な、資源の調査だったり、地球観測だったりすぐ役立つものばかりを期待していると、あまり惑星探査なんかするなよ、になっちゃいますよね。役に立つもの以外はいらないと思ってしまったらもう先はないです。

 宇宙開発で何が大事かというと、すそ野が広い総合科学技術活動ですから、研究開発だけじゃなくて、ほかの産業にも刺激を与えていく、インセンティブなんです

 そこへ引っ張っていくための政策なんだ、というように考えない限り、宇宙開発を進める理由がないと思いますよ。投資リスクがあるなら国際協働もあるかもしれません。どんなメリットがあるかを政策として意識しないと続けられなくなりますよ。


終わりに

 打ち上げから数えて7年にわたる日々について伺ったところ、インタビューもこのように長文となったが、今回で本記事も最終回となる。

 帰還直前、再突入とカプセル回収の準備でお忙しく、また連日のメディア対応だったというなか、取材に応じていただいたJAXA 宇宙科学研究本部の皆さま、またすでにJAXAを離れ、大学で研究・教育にあたられるなか、快く取材陣の訪問を許してくださった方々にも心より御礼を申し述べたい。ありがとうございました。

 また、今回インタビューした方々だけでなく、「はやぶさ」プロジェクトにはもっと多くの部門、メーカーの方が関わっている。そうした方々に、「はやぶさ」との長きにわたる日々を語っていただくことができなかったことをお詫びするとともに、さらなる機会を期したい。


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