サラウンドの魅力がわかりやすい見事な音作り
では、いよいよ本機の音を聴いてみることにする。エントリーモデルとはいえ、7.1chアンプ内蔵で、出力も定格で90W×7、実用最大出力で115W×7と十分。「ドルビーTrueHD」や「DTS-HD Master Audio」など、21のサウンドフォーマットに対応している。ハイトスピーカーを使える「ドルビープロロジックIIz」(関連記事)などには対応していないが、そのあたりは仕方ないだろう。
YPAOのEQ typeをフラットモードとして測定を行なったときの音は、周波数特性はほぼフラットで、クセのない音質となっていた。ちなみにEQオフではやや高域が強めで、そのぶん人の声などの中域の厚みが足りないように感じたが、EQオンにするとそれらが緩和され、聴きやすく声の明瞭さも向上した。
高域の強さはやや残っており、低域も量感が多めな、いわゆる「ドンシャリ」傾向ではあるが、違和感を覚えるほどのドンシャリではなく、スパイスを適度に効かせて素材の味を立たせた料理のように、映画や音楽などのサウンドをより楽しめる音になっている。
オーケストラで各楽器が一斉に演奏をしているときのような、音数の多い場面になると、やや音数が不足しているような感じはあるなど、絶対的なクオリティには物足りない部分もあるのだが、エントリーモデルとしてサラウンドの楽しさを手軽に味わうためのモデルとしては、よくできたチューニングだと思う。
驚かされるのが、サラウンド効果の華やかさで、各チャンネルの音が明瞭に再現され、空間に散りばめられる。音の強弱や微妙なニュアンスをしっかりと描くので、空間の微妙な雰囲気や前後左右に移動する音の移動感がわかりやすく、サラウンド音声の楽しさがよく伝わる。例えばサッカーワールドカップ南アフリカ大会のサラウンド音声による中継では、現地の観客が使う特徴的な楽器「ブブゼラ」の音が周囲から鳴り渡り、スタジアムの雰囲気も満点だった(難聴になると言われるほど「うるさい」こともよく実感できる)。
そして「シネマDSP」についても触れておきたい。これはヤマハ独自の音場プログラムで、世界中のコンサートホールなどの設計も行なっているヤマハが蓄積した音場のノウハウを利用し、より自然な音場感を加味してくれるもの。個人的には、こうした付加的な音場効果はあまり好ましいと感じたことはないのだが、ヤマハの場合は嫌らしいほどの過剰な効果は少なく、記録された音そのままのストレートデコードと比較しても、不自然さが少ないのが良い。
基本的には、ホールの響きを再現するために残響や音の遅れを加えるので、ホールのようなリッチな響きが加わる分、目の前に飛んできて欲しい実音がやフォーカスが甘い写真のようにボケ気味になる印象はある。それでいて、シネマDSPをオフにすると、個々の音は明瞭になるものの、とたんに空間が小さくしぼんでしまい、ちょっと物寂しい感じの音になってしまう。
音場プログラムも、全17種類と豊富で、映画/音楽/ゲームと多彩に用意されている。好みに合わせてベストなものを選んで、SCENEボタンに登録しておくといいだろう。個人的に気に入ったのは、スケール感の大きな音場の「Spectacle」。これはBD版「アバター」とベストマッチで、広大な自然に満ちた作品の舞台にふさわしい広々とした音場が気持ちよかった。
そして「新世紀ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」は、音場感を付加しつつも比較的個々の音を明瞭に再現する「Sci-Fi」が合っていた。旧作のエヴァ時代から、わりとサラウンドチャンネルに声(場内アナウンスなど)を配置するなど、大胆な音作りをするのだが、これらの声やさまざまな音がクリアーで、空間の広がりも適度に広くなっている。
音楽用ソースでは、比較的小さめの空間で残響も少なめで、自分の近くで楽器や声が定位する「Cellar Club」が良かった。いわゆるジャズクラブなどでの演奏を意識したモードで、もともとそうした場所でライブ録音されたビル・エヴァンンスの「ワルツ・フォー・デビー」などは、そのちょっとガヤガヤした感じの雰囲気も濃厚で、楽しげなクラブ演奏が楽しめる。
クラシック向けの「Hall」はやや残響が大きくステージの音が遠く感じられてしまうが、クラシックホールの豊かな響きは心地よい。個々の音までしっかりと聴きたいという人に向くのは「Music Video」。こちらはスタジオ的な音場感で、残響なども少なめだ。
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