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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第5回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その5】

「はやぶさ」は浦島太郎!? 宇宙経由の輸出入大作戦

2010年06月16日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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JAXA相模原キャンパス内のキュレーション設備(提供:JAXA)

回収から始まる、さらなるミッション

 回収後のカプセルは、ただちに直行便で日本へ搬送。JAXA相模原キャンパス内の専用キュレーション施設にて開封、試料採取の結果確認と分析がスタートする。確認だけでも数ヵ月、初期分析には1年を要するという、息の長い「ミッション」がこれからも待っているのだ。


前サイエンスマネージャ 藤原顕教授

藤原 日本へ持って帰ってきた後のサンプルを処理と初期の分析をやるための分析施設を作る必要があったわけです。それに関する話はずいぶん前からやっていましたね。日本国内の分析科学者をいろいろ集めて、どういう風にあるべきか、ということを議論しました。

 早い時期から、今はもうリタイアされた久代先生に委員長になっていただき、本格的にやり始めて、施設の建設が本決まりになったのは「はやぶさ」が飛んでからです。

 最初の1年間に行なう初期分析はどのようににやるか、ということも散々議論しました。まずは限られたメンバー、チームで分析して、最初のキャラクタリゼーション、たとえば色や、重さ、大きさがどれくらいとか、メジャーな元素はどうかなど、基本的な分析を行なおうと。その結果を全世界にアナウンスする。

 それに基づいて世界の学者が、テーマを決めて、「こういう分析をやってみたい」というのを公募するわけですね。それに対して、審査委員会を作って審査して、サンプルを分け与える形にしようと。

 ただ、期待していたほどの量は取れなかったと思うので、それではどのようにするかということが、今は議論されてると思います。「はやぶさ」プロジェクトにはキュレーション施設建設の予算などは全然入っておらず、後からとったわけです。

 弾丸を撃てなかったのではないか、一時は帰還も危ないのでは、というときには、分析施設もだめだねということになりかけました。その辺りの事情をJAXAの上層部に説明しに行ったりもしました。


採れているに越したことはないが

 この記事が掲載された時点でも、サンプルの有無やその量はまだ完全に明らかにはなっていないはずだ。しかし、入っていなかったとしても、それだけで成功/失敗が決まるものではない。「はやぶさ」ミッションの意義はそんな小さなものではない、ということを今では多くの人が理解している。


JAXA名誉教授 的川泰宣氏(提供:JAXA)

的川 そこはいろんな評価があってしかるべきで、アポロ計画のようなプロジェクトでも、「あんなにお金使ってまで行く必要はなかった」なんていう人もいるくらいです。

 「はやぶさ」という計画自体は、工学実験探査機という位置づけですから、小さな天体に行ってサンプルを採ってくる「技術を養う」ということですから。そのノウハウが、日本にしっかり定着すればいいのです。

 そして「はやぶさ」2号機のようなものをやったとき、もっと確実に習得できればいい。はからずも、試験探査機でここまでやるとなると、うまくいき過ぎたくらいだと私は思いますよ。

 サンプルは、もちろんあるに越したことはないですが、あればもう試験探査機の域を越えた大成功になるので、私からすれば(サンプルが入っていなくても)次にこうすれば採れるね、とチームに対しては言ってやりたいですね。

 技術的にも大変チャレンジングな仕事でした。どんどん高いものを求めて挑戦していくということが、結果として日本の若い人たちを育てるためには良かったと思います。

 「はやぶさ」チーム自体は、プロジェクトマネージャの川口も私よりひと回り年下ですし、大学院の若いころからよく知っています。私からすると、一世代下の人たちが、現場のミッションを懸命にやっているというイメージだったんです。

 私は、ど真ん中からは少し離れたところで応援していたという感じ。直接取り組んでいる人たちは、ミッションそのものをがんばるので手いっぱいですから、世間・マスメディアなど外の人たちとチームとの橋渡しのようなことをやっていたわけです。たとえば、「星の王子様に会いにいきませんか」キャンペーンですとか。一般の方々が「はやぶさ」プロジェクトに参加するための手段だったので、海外の方々も含めて、いいつながりができたなあと思います。

 宇宙科学のミッションにもいくつか種類がありますが、たとえばお月さまは2~3日あれば行けるようなところなので、木星とか火星とか、遠くの天体へ行く練習をするのにはもってこい。だから将来は拠点を作る、そこに住むという仕事もある。もうひとつは「はやぶさ」のように、大きな冒険をし、新しい技術の高みを目指す。

 どちらも宇宙計画にとっては大事なことです。「はやぶさ」のように苦労しながらも高みを目指す仕事で、今回日本がこの分野で世界のトップに躍り出たので、あまり時間を置かずに、次へ進んでいくミッションが作られることが望ましいと思いますね。「はやぶさ」を通じて作り上げてきた若いエンジニアの力を、もっと先へ延ばして、世界でもっと大きな貢献ができるように。


カプセル回収に成功――日本酒贈呈も

カプセル回収も順調に進み、和やかな空気のなかで贈呈は行なわれた。ラベルの拡大画像はJAXA公式の「Hayabusa Live」ブログで見ることができる

 「はやぶさ」帰還の興奮冷めやらぬ6月14日午後、オーストラリア ウーメラと中継を結んで、再突入カプセル回収についての記者会見が行なわれた。見つかったばかりのカプセルの状態が良好であるらしいこと、カプセル保護素材 ヒートシールドも早々に発見されたことなどよい知らせを得て会見は和やかに終わり、その後小さなイベントが行なわれた。

 ISASの科学衛星には、煙草や酒のラベルをもじって「性能計算書」の表紙絵を作る洒落た歴史がある。性能計算書とは、打ち上げ直前に作成される、ロケットと衛星の軌道計算に関する書類。その表紙でまさに打ち上げられんとする衛星の目的や特徴を、ラベルデザインを活かして伝えるのだ。

 「はやぶさ」の場合、佐賀県嬉野市の酒造メーカー 井出酒造が作る清酒「虎之児」のラベルを元にしている。「近傍 小惑星 探査」「此機宇宙翔千里」「回収は4年経ってから 開栓には十分注意して下さい」といった遊びが随所に散りばめられ、酒造メーカー名はプロジェクトマネージャの氏名をとって「川口酒造有限会社」となっている。

 打ち上げから7年、この「虎之児」ラベルは2度改訂され、回収までの年数が7年に改められるなど「バージョン3」までが作成された。記者会見後に行なわれたのは、バージョン2ラベルを貼った「虎之児」特別限定版の贈呈。送り主はもちろん、井出酒造である。

 順調に進むカプセル回収に、会見中も終始喜びをにじませていた川口PM。祝いの酒のプレゼントにも嬉しそうであった。


次回予告!

 「はやぶさ」チームに与えられた「真田さん」の称号。中の人たちは、こうした評価をどう思っていたのか。「はやぶさ」プロジェクトの広報活動全般について聞いてみた。そして、「はやぶさ2」と次代の宇宙開発について、メンバーはどんな想いを抱いているのか。


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