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電話網オープン化のインパクトは?

楽天も、ニコ電も! Asterisk梁山泊のその後

2010年06月15日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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既報のとおり、フュージョン・コミュニケーションズはいよいよオープンソースのIP-PBX「Asterisk」へのFUSION IP-Phone網の開放に踏み切った。親会社である楽天での活用はもちろん、さまざまなユーザーやパートナーによって、Asterisk+FUSIONのユニークな活用法が試されているようだ。

AsteriskからFUSION網を使える

 Asteriskへの網の開放は、通信事業者にとって非常に勇気のいる決断といえる。ユーザーが多いとはいえ、オープンソースのIP-PBXに対して、おのれの電話網の制御プロトコルを明かすからだ。一方で、Asteriskユーザーにとってみれば、もとよりIPならではの無料通話サービスで名を馳せてきた同社のIP電話網を、まさに自らの内線網のように扱えるわけだ。Asteriskを使いこなす猛者たちにとってみれば、これほど面白いことはないだろう。

 実際、昨年末から限定公開されたFUSION IP-Phone対応 Asterisk修正プログラムによる接続検証の結果、実にいろいろな活用例が登場しているという。フュージョン・コミュニケーションズの鎌田武志氏にいくつか紹介してもらった。

フュージョン・コミュニケーションズ 新サービス推進部 全社プロジェクトグループ マネージャー 鎌田武志氏

 最初に紹介したいのが、親会社である楽天のインターネット出前サービス「楽天デリバリー」である。インターネット出前サービスは、加盟チェーンの注文をオンラインで受け付け、店舗に対して注文をFAXで流すというもの。このシステムのうち、FAXがきちんと届いたかどうかを確認するための架電で、AsteriskとFUSION IP-Phoneが活躍しているという。

FAXの到達確認をAsteriskの活用で実現する楽天デリバリー

 「自動音声応答システムとAsteriskを組み合わせて、FUSION経由で店舗様に送達確認をしているのです。店舗様としてはインターネットに乗り換えても、業務フローを変えずに注文を確実に受けることができ、楽天デリバリー側では送達確認を自動化し、コストを削減できているわけです」(鎌田氏)とのこと。

AsteriskとFUSION IP-Phoneを活用したニコニコ電話

 Webとの高度な連携を実現したのが、ドワンゴの「ニコニコ電話」である。ニコニコ電話はケータイから生放送を視聴することで、出演者と直接通話できるというユニークなサービスだ。具体的にはNTTドコモ用のニコ生モバイルアプリで番組を視聴中、「ニコニコ電話しますか?」というメッセージが表示されたら、「電話する」と選択する。こうすると抽選が行なわれ、当選すると1分間電話ができる。なお、利用できるのは有料会員のみだ。

 ニコニコ電話での携帯電話の通話はFusion IP-Phone網を経由して、Asteriskで着信を受けることになる。生放送主はPCで会話を行ない、その模様は生放送主のPCから視聴者PCや携帯電話へ配信される仕組みだ。「いわゆるWebとボイスの連携事例ですが、ドワンゴの方も普通のPBXだったらやらなかっただろうとお話ししています」(鎌田氏)とのことで、Asteriskならではの活用だという。

無料音声通話をシステムに埋め込める

 その他、Asteriskのユーザー事例はいくつも挙げられる。弁護士・司法書士法人のみずほ中央グループは、支店間の内外線連携やCRMと連携したFAXサーバーの一元管理をAsteriskですべて行なっているという。担当者のAsterisk習得は完全に独学とのことで、事務所内の使用されていないPCをPBXとして活用しているので、コストは安価に納まっている。

 また、FUSION IP-PhoneとAsteriskを用いたサービスも登場している。回線状況とオペレータの空き状態を確認した後、アウトバウンドのコールを効率よく行なうアンソネットの「IPさきがけコール」や電話で話した内容を事前に登録されている電話に自動的に伝言できるクラフトの「トークメール」など、無料通話のFUSION IP-Phoneや柔軟なシステム構築を実現するAsteriskの特徴を活かしている。今後は単なる音声通話だけではなく、いわゆるCTIの分野やユニファイドコミュニケーションでの活用が見込まれる。

 どのサービスでも共通しているのは、高価な回線交換ベースの通話やPBXでは実現し得なかったコスト削減メリットである。これが実現したのも、オープンソースのAsteriskと無料通話のFUSION IP-Phoneの組み合わせが実現したからこそだ。

 この流れは既存の電話ビジネスを大きく変える呼び水になっているようだ。「先日、オフィスフォンを扱っているナカヨ通信機が、ラインキーをAstersikで使うためのパッチ公開をユーザーの要望に応じて、許諾したんです。作ったAsterisk関係の方もすごいですが、許諾されたナカヨ通信機さんの英断も素晴らしいと思います」(鎌田氏)という話もあったようだ。果たしてこうした流れが、大きな地殻変動につながるのか。興味深いところだ。

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