このページの本文へ

“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第4回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その4】

「はやぶさ」の危機に、真田ぁ~ず「こんなこともあろうかとッ!!」

2010年06月15日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「はやぶさ」の姿勢を正せ――2006年1月~2007年8月

 通信が回復し、「はやぶさ」を帰還させるための準備が始まる。再度のベーキングは、新たな姿勢喪失につながらないよう慎重に行なわれた。そしてイオンエンジンBとDの2基の駆動試験も行なわれ、動作に問題ないことが確認される。

 次に、太陽電池が太陽を追尾して十分な発電量を維持するためには姿勢制御が必要だが、姿勢を変えるため頻繁にキセノン生ガスを使うと、帰還のための燃料が足りなくなってしまう。そこで、太陽輻射圧(太陽光が持つ圧力)を利用して姿勢制御する方法が取られた。

中央の再突入カプセルにイトカワの試料を密閉するため、バッテリへの慎重な充電が行なわれた。過放電したリチウムイオン電池への再充電はリスクが高いものの、容器密閉には不可欠だった

 さらに、貴重なイトカワの試料を持ち帰るためには、試料の容器を再突入カプセルに収納し、形状記憶合金を使った部品にバッテリから電力を供給してふたを閉めなくてはならない。

 リチウムイオン電池は11セル中4セルに不具合があるという状態だったが、バイパス回路を使い微小充電電流で充電することで、不具合のある4セルの発熱・発火を避けることに成功。そして2007年1月18日、当初予定より遅れること13ヵ月、容器の外ふた密閉が完了した。

 その後2007年3月には、イオンエンジンの運転を開始。残燃料30kg強と、帰還には十分な量を残していたことが明るい材料だった。4月25日には、地球帰還に向けた本格的巡航運転を開始。状況は厳しいながらも「はやぶさ」は復路の旅を開始した。2007年8月には、テストを延期していたイオンエンジンCの動作も確認。残存寿命の調整を図りつつ、慎重な運用を開始したのだった。


吉川 バッテリのグループが非常に上手かった。壊れているバッテリに充電すると爆発の危険性がありますが、慎重に時間をかけて壊れていない部分に充電したわけです。充電しないとカプセルのふたが閉まらないので。無事、試料の容器はカプセルに輸送されて、密閉もできた。せっかく取った試料ですからね。


帰還は3年延びたけど、「はやぶさ」は還ってくる!

 2007年10月には、第一期軌道変換を完了、復路の旅は予定を順調に消化していった。弾道飛行による2008年2月の遠日点通過、6月には地球から最遠となる2.5天文単位の位置に到達と進み、2009年2月には、再びイオンエンジン点火。徐々に加速して、3億kmの距離を還ってくるはずだった。

イオンエンジンの地上噴射試験の様子。「はやぶさ」では1万4000時間の稼動が要求されたが、地上耐久試験では1万8000時間を2度達成している(提供:JAXA)


イオンエンジン点火せず――2009年11月

 2009年11月4日、地球帰還を目前にして、イオンエンジンに不具合が起きる。スラスタDが自動停止してしまったのだ。

安部 帰路のなかで私がスーパーバイザーを担当したのは……IES(イオンエンジンシステム)のCとDが動かなくなった、あのときの当番だったんですよ。通常のように切り換えて点火して、加速しようとするのだけれども、立ち上がらずに止まる状態になってしまった。

 普通は、そうなっても慌てないでもう一回点火すれば付くのですが、そのときはたしか付かなかった。このときはそばに西山先生(IESチーム 西山和孝氏)という電気推進担当の方がいて、いろいろやってみて「これはちょっと深刻だね」ということで國中先生に来ていただいた。そしてバックアップの運用に入ったわけです。


國中 ちょうど韓国滞在中にスラスタCが調子悪くなったという情報を得て、急遽帰国してオペレーションしました。それまでの考えとしては、CとDを一台ずつ使って地球まで持って来ようとしていたんですけど、スラスタCの中和器の部分が電圧上昇してしまい、最大推力を出すことができなくなっちゃったんですね。それがわかったのが10月の中ごろです。

 そこで新しく軌道計画をもう一回練り直しました。10月からスラスタCかD、一台ずつで推力を絞って12月まで運転する。12月になったら、探査機がだいぶ太陽に近づくので、電力供給が回復しますから、スラスタCとDを低推力で二台同時運転して、一台分以上の推力を出して、10~12月に足りなかった分を12月、1月、2月と二台運転で補うと。

 それが10月下旬のことです。その計画に基づいて、スラスタDの低推力運転を始めたのですが、今度はスラスタDが故障で止まってしまった。その時点で計画は変更を余儀なくされ、しかも使えるのはスラスタCの推力の80%くらい。この状態では、地球帰還できないという事態に追い込まれました。

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

ASCII.jpメール アキバマガジン

クルマ情報byASCII

ピックアップ