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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー! 第4回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その4】

「はやぶさ」の危機に、真田ぁ~ず「こんなこともあろうかとッ!!」

2010年06月15日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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2005年11月26日、イトカワへの再タッチダウンと試料採取が行なわれた(提供:JAXA)

第二回タッチダウン 試料採取まで戻るに能わず――2005年11月26日

 そして11月26日、「はやぶさ」は、再度の着陸を実施する。ターゲットマーカの誤認識を防ぐため、2回目の投下は中止、障害物検出の機能を制限するなど各種の調整が行なわれての再挑戦だ。26日午前6時25分ごろ、地上からのGOコマンドを受けてホバリング、着陸と試料採取を試みた。弾丸(プロジェクタイル)発射から一連のシーケンスを実行、サンプラーホーン変形から弾丸発射まで一連の作業を示す「WCT」の表示が現われた瞬間、管制室はどよめいたという。


「WCTは弾を撃ったという証拠じゃない」

吉川 リハーサル含めて全部で5回、着陸のシークエンスをやりましたが、1回につき2日ぐらいかかるんですよね。我々というかJAXA側は、人数が少なくて交代する相手がいないので、私はその間ずっと寝ずにモニターする日が続きました。


齋藤 泊まり込みというか、みんな近所だから寝には帰っていたと思うのですが……それでも結構忙しかったですよ。


矢野 2回目の着陸は最後のチャンスでしたから、あえて中止項目を外して、リスクを取って、とにかく着陸しようと。サンプラーホーンもちゃんとたわんで、着地して、「弾を撃て」というコマンドが発行されたところまでは事実です。

 僕は、サンプラーホーン担当と同時に、第一回、第二回のタッチダウン、接触後に離脱するときのスーパーバイザーでもありました。スーパーバイザーは8時間交代で、リハーサルからタッチダウンまで3人のメンバーで繰り返し担当していました。降下からタッチダウンまではリハーサルもできるのですが、最後のひとり、離脱を担当している僕は(タッチダウンの際に何が起こるかわからないので)毎回シナリオがないんです。

 一応、頭の中に流れを全部入れて臨むのですが、常に「今できることは?」「探査機を壊さないようにするには?」ということを考えないといけない。

 僕、すごくよく覚えてるんですけど、「WCT」の表示が現れて、周りが「わーっ」と盛り上がって握手したり抱き合ったりしていたとき、一番奥の管制卓にいた僕はそうなってないんですよ。なぜかというと、「WCT」は弾を撃てというコマンドを発したという印に過ぎなくて、弾を撃ったという証拠じゃないんです。

 コマンド発行と、コマンド実行との間には、凄く大きなギャップがありますよね。コマンドを発行して、着火されればさすがに弾は飛び出しますから、僕はずっとそれを待っていたんです。

着陸後、間髪入れずに弾丸を発射し、舞い上がった物質をカプセルに格納する(画像はJAXAのプレスキットより抜粋)


帰って来い「はやぶさ」、しかし燃料漏れ発生――2005年11月26日

 成功裏に終わったタッチダウンから一転、「はやぶさ」にトラブルが起きた。第二回タッチダウンと同日の11月26日、離陸後に化学エンジンから燃料漏れが発生。28日には、いったん通信リンクが途絶える。

 29日には低利得アンテナでの通信が回復し、徐々に「はやぶさ」の状況が明らかになるも、弾丸射出データは確認できず、試料採取シーケンスのなかでイトカワ表面の砂礫を巻き上げるための弾丸(プロジェクタイル)が発射されなかった可能性が高いことも明らかになった。


弾丸発射中止コマンドが残っていた可能性と、弾丸発射によるとみられる温度上昇。果たして弾丸は発射されたのか? 「とにかく事実を知りたい」(矢野氏)

矢野 弾丸を射出する部分は、点火球に電気を走らせて火薬を爆発させ、弾を加速させるわけですが、点火球がちゃんと導通したかどうかを「はやぶさ」は記録していたはずなのです。しかしそのデータは一時メモリに入っていたので、探査機と通信断絶後、復旧しても再生できませんでした。

 また最後の部分は人間が判断をくだすわけでなく、ロボットが条件に沿って自律的に判断するのですが、そのときに実際は不用な弾丸発射中止のコマンドが残っていた可能性があります。

 最大の原因は、第一回と第二回の間に1週間しか時間がなかったため、地上側でじゅうぶんなシミュレーションができずに臨まざるを得なかったこと。

 すべてのエラーをつぶしてからできればよかったとは言えると思いますが、あのときのメンバーは日本で最も探査機の運用が上手い人たちで、それでもミスがあったとすれば、誰でもミスするレベルだったと思います。

 僕にとっては、とにかく「事実を知りたい」ですね。WCTの表示が出て、コマンドが発行されたその結果を一時メモリから再生する前に、「はやぶさ」は姿勢を失って、リカバリしたときには結果は失われていた。

 一方で、温度に関係するデータを集めてみました。降下する際、探査機は小惑星からの照り返しを受けて、おおよそ決まったレートで温かくなっていくのですが、火薬が爆発するとその周囲の温度が急に上がるはず。温度のデータは取得できたので、調べてみました。

 ごくわずか、数ディジットのレベルですけど、上がっているようには見えるんです。それが弾を撃ったことによるのか、熱慣性の問題なのかわかりませんが、弾を撃ったから温度が上がったと考えても矛盾のないデータではあります。とにかくあのときは「探査機を壊さないように」というのが最優先で割と淡々としてはいたのですが、事実を知りたいという気持ちはずっとあります。

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