新しい「森」を生み出す最初の「木」
3年半前、ASCII.jpにて「iPhoneは大きな森を生み出す「最初の木」」という前中後編からなる長い記事を書いた(関連記事)。
iPhoneの発表は、ただの新型携帯電話の発表に留まらない。「業界を変え、文化を生み出す力」がある、と予言した記事だ。この3年半を振り返ってみて欲しい。iPhoneが変えたのは、携帯電話業界だけではないはずだ。
携帯電話からパソコン用のウェブページを快適に閲覧するという「Web 2.0 in your pocket.」の革命を巻き起こしたのはもちろん、携帯型ゲーム機の業界にも激震を走らせて、インターネット経由でタイトルを購入できる「ニンテンドーDSi」と「PSP go」の誕生を後押しすることになった。
iPhone 4は、携帯電話や携帯型ゲーム機はもちろん、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子ブックリーダーのメーカーにとっても大きな脅威となるだろう。
携帯電話として見たiPhone 4で特筆すべきなのは、ビデオ通話機能の「FaceTime」だ。iPhoneのSMSが、ただの短信メッセージのやりとりを、楽しい会話に変えてしまったように、FaceTimeは、これまで多くのメーカーがチャレンジしつつも、決して広がることがなかったテレビ電話「体験」を変えてくれそうだ。
これまでのテレビ電話機能との違いは、仕様的な部分ではない。画面のデザインや操作性、そして今回のiPhone 4のこだわりの1つでもある画質と操作のしやすさ、レスポンスの早さといった要素の絶妙なバランスだ。
デジタルカメラとして見ると、これまでiPhoneが築いてきた使いやすさやアプリの豊富さといった魅力はそのままに、500万画素の高解像度を手にしたことがトピックだ。5倍表示のデジタルズームやLEDフラッシュ、低照度撮影の改善などデジタルカメラとしての基本部分の進化も見逃せない。
実は、このデジタルカメラ機能の説明で、スティーブ・ジョブズがアップル製品の本質に触れる言葉を発している。
「多くの人々は何メガピクセルなのかについて語りたがるが、われわれはどうやったら、よりいい写真が撮れるのか、と自問している」
スペックではなく、その裏にある本質を探るのがアップルのものづくりのアプローチだ。
ビデオカメラとしてのiPhone 4はさらにスゴい。アップルはこれまでも動画の楽しさを伝えようと、度々チャレンジしてきた。動画編集ソフトの「iMovie」は、アップルのマルチメディアスイート「iLife」に含まれるソフトの中でもっとも古いものの1つだし、その後も、iLifeにDVDオーサリングソフト「iDVD」を加えたり、ビデオ対応iPod nanoを出している。
しかし、動画は撮るデバイスと編集するデバイス、そして見て楽しむデバイスがバラバラな上に、ファイルの容量も大きいので移動させるのが非常に難しかった。
そこでiPhone 4では、撮る/編集/見るという3つの行為を1つのデバイスにまとめた。今年注目したいトレンドの1つとして年初に挙げた「スナップビデオ」の質をさらに高めてくれることになりそうだ(関連記事)。
そして電子ブックリーダーとしては、326ppiという解像度で人間の網膜が認識できる限界を超えたという高精細な「Retinaディスプレイ」を通して、文字をきれいに読ませてくれる。アップルは、特に漢字混じりの日本語などを読むのに大きな効果を発揮すると語っている。
ゲーム機では、三軸ジャイロスコープの新採用で、より細かな操作にもちゃんと反応してくれるようになった。iPhone用アプリを配信している「App Store」には、すでにゲーム・エンターテイメントアプリが5万700本以上揃っている。これはニンテンドーDSの4321本や、PSPの2477本という数字をはるかに上回るもので、タイトル数的にも有力なゲーム機器になりつつあった(数字は2010年4月時点の発表)。
楽しみなのは、ここで紹介した高画質のカメラや高精細なディスプレー、高感度なジャイロスコープといった要素が、この先、どのような新しいアプリケーションを生み出してくれるか、という点だ。iPhone 4が上で触れなかったどんな業界に影響を与えるか、目が離せない。